| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-10 (Oral presentation)
環境DNA技術を用いたイトウの季節回遊行動の推定
*水本寛基, 荒木仁志 (北大・農・動物生態), 宮正樹 (千葉県立中央博物館)
イトウ(Parahucho perryi)は北海道を代表する「幻の魚」であり、河川生態系における最高次捕食者のうちの一つである。本種はIUCNのレッドリストにおいてCRに位置付けられる絶滅危惧種だが、現在の分布域および生物量などの基礎的な情報をはじめ、本種の生態学的な知見は極めて限られている。特に遡河回遊魚である本種の河川内利用様式の季節変化についてはバイオテレメトリーなどを用いた生態調査がなされてきたものの、これらの調査手法には標本サイズが制限されやすいという弱点があり、本種の普遍的な行動生態の解明には至っていない。加えて、その回遊行動の駆動要因についても水温変化に伴う冷水に対する正の指向性が傾向として見られるのみで、本種と本種を取り巻く多くの餌生物との移動様式の関連性については未だ明らかにされていない。
環境DNA技術とは環境媒体(土壌、環境水など)に含まれる様々な生物由来のDNAから標的生物の在・不在を判定する技術である。この技術は対象種を直接捕獲する必要がないことから希少種の調査に効果的であるだけでなく、例えば魚類ユニバーサルプライマーを用いることで調査水域の魚類相を網羅的に明らかにすることができる。本研究では北海道内の2水系(猿払川と別寒辺牛川)について河川上流から河口まで四季を通じた採水調査を行い、イトウの河川内利用様式の季節変化の解明を試みた。その結果、イトウの季節的な河川内分布は両水系間で異なっていただけでなく、猿払川ではイバラトミヨとフクドジョウ、別寒辺牛川ではエゾウグイがイトウと高頻度で同所的に検出された。このことから本種の季節回遊行動や同所的に存在する餌生物は水系ごとに異なる可能性が示唆された。