| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-05  (Oral presentation)

イトヨの回遊パターンの多様性を生む遺伝基盤

*石川麻乃, 北野潤(国立遺伝学研究所)

魚の回遊や、鳥や蝶の渡り、大型草食哺乳類の大移動など、遠く離れた生息地を行き来する季節性大移動は、その獲得や喪失、移動パターンの変異が、鳥類などで見られる爆発的な種分化と適応放散、そしてその多様性の維持に大きく寄与する。これまで、幾つかの動物種で、回遊や渡りを誘導する環境要因やそれに関連する生理的変化を引き起こすホルモンが明らかになる一方、「どのような遺伝子発現が回遊や渡りを制御するのか」や「どのような遺伝的変異が、回遊や渡りの多様性に寄与するのか」はほとんど分かっていない。そこで、我々は、進化生物学のモデル生物であるトゲウオ科魚類イトヨGasterosteus aculeatusとその近縁種ニホンイトヨG. nipponicusが示す多様な回遊性生活史をモデルにこの問いに取り組んでいる。イトヨやニホンイトヨの生活史は、遡河回遊型と淡水残留型、回遊多型に分けられる。ニホンイトヨや祖先的なイトヨ集団は、川で生まれ降海する遡河回遊型であるが、世界各地の川や湖に進出したイトヨの中からは、一生を淡水域で過ごす淡水残留型が繰り返し出現している。また、北海道東部の一部のイトヨ集団は、体サイズに応じて残留するか、降海するかを可塑的に切り替える回遊多型を示す。これらの集団は交配可能であり、時に野外でも交雑するため、これらを用いて回遊パターンの違いをもたらす遺伝基盤を同定できる。本発表では、野外で採取した降海前と降海中の個体、川に残った残留個体のトランスクリプトーム解析と、実験室内で密度や日長条件を操作した個体のトランスクリプトーム解析、遡河回遊型と回遊多型の交雑集団を用いた集団ゲノム解析の結果から得られた、イトヨの回遊行動の制御に関わる候補遺伝子群と回遊パターンの違いに寄与する候補ゲノム領域について報告する。


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