| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-10 (Oral presentation)
托卵とは、動物が自分の卵や子の世話を他個体に負担させる現象であり、種内托卵と種間托卵に大別される。托卵に関する研究は、昆虫類、魚類、鳥類などの分類群で数多く行われている。貝類でも托卵が示唆される現象は知られているものの、その過程を詳細に観察した例は少ない。
エゾボラNeptunea polycostataは、北海道における重要な水産有用種である。しかし、その資源量は近年減少しており、適切な資源管理や資源量増大に向けた方策が急務である。えりも町栽培漁業振興協議会では成貝飼育による種苗生産を試みており、演者らは、効率的な種苗生産の実現を目標として、飼育環境下における成貝の行動観察を2年以上にわたって継続している。昨年度の観察において、本種の産卵場所を観察できた51例のうち、24例が同種他個体の貝殻表面に産卵することを確認した。さらに、貝殻への産卵開始から終了までに要した時間が、2ヶ月以上に及ぶものが多かった。托卵される個体では、産卵に抵抗していると思われる行動が観察された。いっぽう、メスが自身の貝殻表面に産卵する行動は全く観察されなかった。
今回観察された行動は、卵の生存率を高めるために母貝が他の成貝に卵塊を保持するコストを負担させている(あるいは、長期間にわたる産卵で生じる拘束のコストを負担させている)種内托卵だと考えられる。本種の卵は直達発生を示すが、産卵から稚貝の孵化まで1.5年程度を要することが飼育観察から明らかとなっている。孵化まで長期間かかるために、メスが岩などの無機物に産卵すると、食害や砂中への埋没などによって卵の生存率が低下するのかもしれない。他個体の貝殻表面に産卵することは、これらの環境ストレスを他個体の行動によって低減すると考えられる。