| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-04 (Oral presentation)
変動環境下での生活史理論は、古くはMacArthur & Wilson (1967) のr/K選択概念、Cohen (1966)らの二股掛け理論が提唱された。また、Cole (1954) は推移行列のLotka-Euler方程式を極端に単純化したモデルにより、繁殖開始齢の早さが内的自然増加率に最も強く効くことを示した。しかし、環境変動パターンはさまざまで、そこで進化する生活史形質は単純なモデルでは一義的には決まらない。さらに、環境変動での表現型可塑性を野外の現実の生物の推移行列に取り込む理論も登場し(Sherman & Runge, 2008)、古典的モデルから大きく理論的拡張が迫られている。演者たちは、コガネコバチ科寄生蜂Anisopteromalus quinarius(野外でシバンムシ科に寄生)が成虫の摂餌の有無により、日毎の繁殖力(mx, 次世代羽化生産数)・日毎の生存率(px)・生残率(lx)が大きく変化する表現型可塑性を報告してきた。今回は、摂餌対象として25%ハチミツ水溶液のみ、ハチミツ+花粉、ハチミツ+コラゲンペプチドを供試し、生活史パラメータの変化を報告する。次に、数値シミュレーションで、A. quinarius 成虫の摂餌による推移行列の変化が、異なる環境下で内的自然増加率(λ)に与える影響を解析した。2つの状況を想定し、状況1では環境が悪いとmxが一定の割合で減少する影響を、状況2では羽化後に時間がたつほど良い宿主に当たる可能性が高くなる学習効果を、各々λを予測して解析した。その結果、両方の状況ともに、たくさん産卵できる環境では寿命を縮めても一気に産卵する方がよく(「太く短い人生戦略」)、あまり産卵できない環境では程度寿命を延ばして多く産卵数する方がよい(「細く長い人生戦略」)予測となった。これをもとに変動環境下での適応戦略を考察する。