| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-07 (Oral presentation)
植物では、近縁種間で頻繁に種間交雑が生じ、ときに雑種が恒常的に存在する交雑帯が形成される。こうした交雑帯の存在は雑種種分化、浸透性交雑、生殖隔離の強化、種の融合などの場となり、種分化過程において重要な役割を担っていると考えられている。
ツツジ科ミツバツツジ節(Rhododendron sect. Brachycalyx)は、日本で多様な地理的分化を遂げた植物群である。関東地方南部はトウゴクミツバツツジ、ミツバツツジ、キヨスミミツバツツジの3種のミツバツツジの分布重複域となっている。通常これらは生育立地に微妙な違いにより棲み分けているが、富士箱根地域では、火山地帯の自然攪乱により複数種が同所的に生育し、雑種と思われる個体が混生する交雑帯が認められる。このような交雑帯は、交雑帯が種分化に及ぼす進化史的意義を解明するための格好の材料となる。
本研究はミツバツツジ交雑集団の遺伝解析を通じ、交雑帯の遺伝的組成や浸透性交雑、種分化に作用する遺伝子の解明を目的とする。そのためにまず富士・伊豆地域地域において、(1)ミツバツツジ節3種が同所的に生育し雑種個体が認められる「交雑帯」と(2)ミツバツツジ類1種ないし2種が生育し顕著な雑種個体の存在が認められない「純系集団」を対象にSSR解析をおこない、遺伝構造を比較した。
STRUCTURE解析により最適集団数はK=3と推定され、各クラスターは形態的な分類とほぼ一致した。また「純系集団」として扱った集団の一部ではトウゴク・キヨスミの雑種、ミツバ・キヨスミの雑種と考えられる遺伝的組成を示す個体が散見されたが、トウゴク・ミツバの雑種と推定された個体は皆無であった。一方、交雑帯においては3種の中間的な遺伝的組成を示す個体が数多く認められ、繰り返し生じる雑種形成によってhybrid swarmを形成していることが示唆された。