| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) G01-12  (Oral presentation)

食性幅に依存した鱗翅目昆虫の種多様化パターン

*阿部智和, 村上正志(千葉大・理)

植食性昆虫は陸上生態系において極めて種多様性の高いグループである。特に種多様性が高い熱帯域で昆虫各種の食性幅が狭い傾向にあることが知られており、食性の特殊化と多様性の関係が注目されている。多様化のプロセスに関する主要な仮説であるオシレーション仮説は、広食性の種が食性を特殊化するのに伴い種分化を起こすことで、多様化が促進されるとしている。すなわち、この仮説の下では食性幅と多様化率の間に正の相関があることが期待される。しかし食性幅と多様化率の関係を直接検証した例は一部の昆虫に限られている。一方で、近年、鱗翅目昆虫の系統情報が蓄積されつつあり、様々な分類群の情報が利用可能となった。本研究では鱗翅目昆虫に着目し、幅広い科を対象に属の食性幅と多様化率の関係を解析することで、両者の関係の普遍性を検討した。
 既存研究で属間の系統関係が明らかになっている鱗翅目の科について、属レベルの系統樹を作成し、分岐年代を推定した。各属のステムグループ年代と現存種数から、モーメント法によりその属の多様化率を推定した。食性データは鱗翅目昆虫の文献情報を集約したHOSTSデータベースのものを利用した。属の食性幅の指標として、ホスト植物の科の数と系統的多様性を利用した。鱗翅目の各科について、属の食性幅と多様化率の関係を系統一般化最小二乗法(PGLS)により調べたところ、食性幅が広い属ほど多様化率が高いという結果が観察された。これは、植食性の鱗翅目昆虫において、広食性が種分化を促進するというパターンが一般的である可能性を提示する。さらに鱗翅目の科間の比較により、咀嚼型の摂食様式をもつ科が潜葉型や隠蔽型の科よりも多様化率が高いことが分かり、植食性昆虫の多様性研究において生活史を考慮する必要が示唆された。


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