| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) G02-04  (Oral presentation)

無居住化は里山景観の植物種の多様性をどのように変えるのか

*小林慶子(国立環境研究所), 深澤圭太(国立環境研究所), 浅原昭生(Team HEYANEKO), 竹中明夫(国立環境研究所)

無居住化は、これまで人間活動によって維持されてきた二次林や半自然草地、水田などを生息・生育地とする生物の消失・減少させる原因になると懸念されている。一方、無居住化した地域を自然の遷移にゆだねて自然植生へ移行させることができれば、人間の開発圧によって劣化した生態系を回復させる契機となるかもしれない。本研究では、全国各地の無居住化集落とその近隣の人が暮らす集落の種組成を、指標植物を用いた野外調査によって比較し、無居住化が植物種の多様性に与える影響を評価した。

無居住化集落とその近隣の居住集落を70セット選定して調査地とした。いずれも1kmの調査ルートを設置可能な大きさの農業集落で、無居住化集落は農業活動がほぼ停止していること、居住集落は農業活動が行われていることを選定の条件とした。無居住化後の年数を複数の資料(旧版地形図、ゼンリン住宅地図、全国学校総覧、インタビューなど)を用いて確認したところ、調査時点でおおよそ55年から2年が経過していた。各調査地には、調査地の里山景観の代表的な要素(二次林、刈取り草地、水田、宅地)を通過する1km × 100mのベルトトランセクトを設置し、トランセクト内の歩行可能な道を踏査して指標種の在不在を記録した。指標種には、各要素の植物群落に特徴的に出現し、植物社会学的群落分類の際に標徴種として用いられる多年生草本と灌木のうち、広い分布域を持つ種を選定して用いた。

農業活動によって維持される場所を生育地とする水田性種と草原性種は、無居住化によって減少する傾向にあった。特に、水田性種は水稲耕作が行われない集落ではほぼ消失していた。一方、比較的安定した環境を好む森林性種のうち、無居住化によって増加する傾向が見られた種はわずかであった。50年程度までの時間スケールでは、無居住化は里山的環境を好む種を消失させる要因にはなるが、奥山的環境を好む種を回復させる要因にはなり得ていないようだ。


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