| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-04  (Oral presentation)

亜高山帯針葉樹の枝における水輸送の維持機構 ―冬季の通水阻害とその回復―

*種子田春彦(東京大学), 小笠真由美(森林総合研究所), 矢崎健一(森林総合研究所), 宮沢良行(九州大学), 丸田恵美子(神奈川大学)

シラビソ(Abies veitchii)は寒温帯に生息するモミ属の常緑針葉樹で雪の比較的少ない地域で優占して森林を形成する。林縁や尾根上、森林限界などの風衝地に分布する個体では、春先に風上側の枝で葉が褐変して枯死する現象が見られる。こうした枝の枯死は、進行すると風下側だけで枝が発達する「旗型樹形」をつくりだし、さらに深刻化すると個体全体の枯死を引き起こす。私たちのこれまでの研究から、北八ヶ岳の標高2250m付近に生えているシラビソにおける風衝枝の枯死は、冬に起きる強い乾燥とそれにともなって起きる枝の通水阻害が原因であることを示唆した。本講演では、cryo-SEM(低温走査型電子顕微鏡)による観察で得られた、2017年の冬から夏の一年生枝の木部内の水分布の季節変化から新たに明らかになったことを発表する。水分通導度の測定から、2月から3月にかけて枝では深刻な通水阻害が起きていたが、3月上旬までは枝の木部はほぼ水で満たされており、通水阻害の原因は仮道管間の連絡経路である壁孔の閉鎖にあったことが示唆された。一方で、3月下旬には木部内の多くの領域が気体で満たされていて仮道管のキャビテーション(空洞化)が通水阻害の原因であった。降雨のあった4月以降は、水ストレスと通水阻害は回復に向かった。壁孔膜の閉鎖は5月までにほとんど解消し、7月にかけて徐々にキャビテーションの起こった領域が減り、仮道管への水の再充填が起きたと考えられた。こうした再充填は、木部内では葉跡周辺でいち早く確認されており、葉で吸収された水が師部などを通って枝の木部に水をもたらすことが示唆された。


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