| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-09 (Oral presentation)
生物の多種共存機構の解明は、生態学における中心的議題の一つであり、古典的には、 “種間でニッチを共有しないこと”が重要であると考えられてきた。顕花植物においては、2種が送粉ニッチ(いつ・どこで・だれに花粉を運ばれるか)を共有する場合、送粉者を取り合うことによる訪花頻度の低下や、異種花粉が柱頭に付着することによる花粉管の干渉・胚珠の天引きといった繁殖干渉が引き起こさせることが知られている。このような繁殖干渉は、形質置換によるニッチ分割や、競争排除を強く促進するため、送粉ニッチを共有する植物の野外での共存は困難であると考えられてきた。
しかし近年、野外在来近縁植物種間での繁殖干渉の存在が数例報告されている。在来一年生草本ツユクサ・ケツユクサ系もその一つであり、野外集団で頻度依存的な繁殖干渉がみられること、ツユクサ・ケツユクサの行う先行自家受粉がその悪影響を軽減していること、等が示唆されている。
本発表では、それらの知見を踏まえ、「先行自家受粉の進化が繁殖干渉下での植物2種の共存を促進する」という仮説の検証を目的とし、個体ベースモデルを用いてシミュレーションを行った結果について報告する。本モデルでは、先行自家受粉率(胚珠のうちどれだけ先行自家受粉によって自殖を行うか)を進化する形質として扱い、近交弱勢の程度・送粉者の量を変化させたいくつかのシナリオで解析を行った。結果、先行自家受粉率が進化しない場合には、速やかに繁殖干渉による競争排除が発生するが、2種の先行自家受粉率が進化すると仮定した場合には、先行自家受粉の共進化によって2種の共存が促進される領域が存在することが示唆された。また、近交弱勢の程度などのパラメータの値によって、異なる進化―個体群動態のパターンが見られることを発見した。