| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-03 (Oral presentation)
環境温度が哺乳類や鳥類の季節繁殖に与える影響は,急激な温度変化に伴う生態系ネットワークの撹乱という観点のみならず,ヒトの季節性疾患や家畜の生産性の観点からも注目されている.しかし,環境温度は日長とパラレルに変化するため,これらの影響を分離しやすい野生動物モデルが望まれている.日本固有アカネズミ類は繁殖期に3型があり,膣と精巣の観察で繁殖状態を評価できる.北半球に生息する多くの哺乳類集団は春から秋に繁殖するが,先行研究から,宮崎市の集団は秋から春に繁殖することが示唆される.そこで本集団を対象に,環境温度変化に対するアカネズミの繁殖応答を野外実験と飼育実験により調べた.
予測通り,宮崎市の集団は秋から春の年1峰型の繁殖期を持つことが明らかになった(P1-180).次に,自然状態よりも暑熱・寒冷ストレスが強い半野外施設で交配実験をした結果,オスは非繁殖期の夏に精子を生産し,メスは夏だけでなく繁殖期の冬にも膣を閉塞させた.さらに,窓から採光した室内で適温で飼育すると,頻度は低いものの雌雄ともに夏でも冬でも繁殖状態が誘導でき,交配に至った(P1-123).オスよりメスが環境温度の影響を受けやすく,これが原因で,暑熱・寒冷ストレスが強まると,秋から春の1峰型から春と秋の年2峰型へと繁殖パターンが変わることが示唆された.繁殖状態の誘導は短日順化と長日順化の双方で観察されたため,本集団のアカネズミの繁殖誘導に光周性は重要でないように思われる.一方で,繁殖のコストが著しくメスに偏る哺乳類では,不適な時期の繁殖を迅速に回避できる仕組みをメスが備えているのは適応的である.季節繁殖は好適な季節を予測する応答だと考えられてきたが,年に複数回繁殖できる小型哺乳類では,メスの環境温度への鋭敏な応答によって不適な時期を回避する応答であるかもしれない.高緯度地域や寒冷地域由来の集団と比較しながら,光や温度の変化を予測的に利用しているか否かの判別が重要である.