| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-04 (Oral presentation)
同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、小型個体ほど外洋で浮遊生物を、大型ほど浅海で底生動物を摂餌する傾向がある。浅海摂餌者は外洋摂餌者よりも2.5倍多く卵を産出することと、摂餌者間で中立マーカーにおいて遺伝的構造がみられないことから、多型は条件戦略で維持されていると考えられている。しかし外洋摂餌者由来の子供の生残率が2.5倍高ければ、適応度が釣り合うため、遺伝子マーカーや維持機構の再考を要する。本研究では、少産の外洋摂餌者が子供の生残率を高めるために、(1)波による害を被りにくい、海から離れた場所で産卵できる、幅の広い浜を選んでいるのか、(2)実際に浜の奥で産卵しているのか、を検証した。
2011年4〜8月に、屋久島永田のいなか浜と前浜において、本種の産卵個体調査を実施した。海岸線に沿って浜を6つの区画に分け、産卵に使われた区画を記録した。155個体から卵を採取し、安定同位体分析で餌場を判別した。また2017年5〜7月の各月に15日ずつ、いなか浜の最も産卵の多い区画5を中心に、産卵個体調査を実施した。安定同位体分析用に卵を採取した78個体が産んだ88巣の緯度経度をGPS受信器で記録した。位置データをGoogle Earth Proに取り込み、巣から植生までの距離と、巣から大潮満潮線までの距離を測定した。
2011年は、外洋摂餌者13頭が38巣、浅海摂餌者142頭が488巣産んでいた。両摂餌者とも幅の広いいなか浜でより多く産卵しており、区画5での産卵が最も多かった。摂餌者間で砂浜及び区画の利用頻度に有意な違いはなかった。2017年は、外洋摂餌者20頭が22巣、浅海摂餌者58頭が66巣産んでいた。摂餌者間で巣から植生までの距離に有意差はなかった。外洋摂餌者の方が有意に大潮満潮線に近いところで産卵していたが、浜幅を補正すると有意差は消えた。これらの結果は、両摂餌者由来の子供の陸上での生残率に違いがないことを示唆し、適応度の不釣り合いや回遊多型の後天性を強く支持した。