| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-05 (Oral presentation)
【はじめに】地下水は河川水に比べて栄養を豊富に含んでおり,沿岸海域の生物生産に高く寄与することが近年明らかにされつつある.しかし,過去の研究の大部分は地下水と低次生産の関係を対象にしており,高次生物への影響を扱った事例は世界的にも乏しい.本研究では,海底に湧く地下水(海底湧水)が魚類の摂餌・成長に与える影響を評価することを目的として野外ケージ実験を行った.
【方法】事前調査により測定した海水中のラドン濃度(地下水湧出の指標)をもとに,湧水区(瀬戸内海の沿岸域)と対照区(近隣の無人島:非湧水区)を設けた.2017年6月12日に人工マコガレイ稚魚(平均全長63.5 mm)を1尾ずつ収容したケージ(45×45×30 cm,網目10㎜)を各調査区内の海底に16個ずつ設置し,2週間後に回収した.期間中の体長増加量と回収時の胃内容物を調査した.ソリネット(40×30 cm, 網目0.3 mm)による環境中の餌料生物採集,粒径組成およびデータロガーによる経験水温・塩分の解析をあわせて行った.
【結果・考察】湧水区におけるマコガレイ稚魚の平均日間成長速度(0.27 mm/d)は対照区(0.17 mm/d)に比べて速かった.マコガレイ稚魚の胃内容物の多くはヨコエビ類,貝形類,二枚貝類などで占められた.これらのうち,当海域における天然マコガレイ稚魚の主要餌料であるヨコエビ類の分布密度は湧水区において高かった.底生微細藻類の生産速度(炭素重量)および胃内容物の乾燥重量も湧水区において多かった.以上のことから,海底湧水起源の栄養がマコガレイ稚魚の摂餌と成長を促進している可能性が示唆された.