| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-003  (Poster presentation)

シカの影響の履歴効果 ―下層植生への反応と土壌物理性からの検証―

*原田憲佑, 鈴木牧(東大院・新領域)

シカの増加に伴う土壌物理性の悪化やシカ不嗜好性植物の増加などの影響は、森林内の下層植生に累積していくと考えられる。シカの影響を受け続けた森林では、シカの採食圧と植物量間の量的関係が変化することや、過去のシカ密度が現在の植生の種組成に影響すること(履歴効果)が予想されるが、そのような予想の検証は今まで行われていない。本研究では、11年前に南房総の広域で行われた植生調査(Suzuki et al. 2008)の追跡調査を行い、シカ密度と下層植生の関係の経年変化を調べた。また、植生調査地の土壌孔隙率を調査し、シカによる土壌物理性の悪化と、その悪化による下層植生への影響を検証した。
同程度のシカ密度(DDI:1m2当たりの糞粒数)における2005年と2016年の植被率を比較すると、2016年のほうが2005年より低下していた。2016年の下層植生の種組成に関するCCAでは、種組成を説明する環境因子として、2005年のシカ密度が選択された。これらの結果から、下層植生の植被率と種組成に対するシカの履歴効果が確認された。土壌物理性をDDIと環境因子から説明するパス解析では、シカの増加の影響がリター層の減少を介して、粗孔隙率を低下させる効果パスが検出された。しかし、粗孔隙率の減少が下層植生を減少させる効果パスは検出されず、下層植生を減少させる履歴効果を土壌物理性の悪化による効果からは説明できなかった。シカ密度が減少した地域でも嗜好性植物が回復しない地域が多く見られたことから、生長速度の低下やシードバンクの減少などの形で植生の成長能力にシカの影響が蓄積されたことが、履歴効果の原因であった可能性がある。また本研究にて、シカ密度が増加しても不嗜好性植物の増加が起こらない地域が多く見られたことから、たとえ不嗜好性植物がいたとしても、森林内の下層植生の消失は防げないと考えられる。


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