| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-012  (Poster presentation)

早春に開花するヒサカキの送粉者

*龍野瑞甫, 大澤直哉(京大・農・森林生態)

 虫媒花の多くは、暖かい季節に開花する。虫媒花には、送粉者としての高い能力が知られているハナバチ類やチョウ(e.g. Herrera 1987)が訪花することが多い。ところが、虫媒花であっても、ハナバチ類の活動が不活発な、寒い季節に開花するものもある。このような植物の送粉メカニズムについての知見は、著しく不足しているのが実情である。本研究では、初春に開花する、雌雄異株の常緑低木樹であるヒサカキ(Eurya japonica)に着目し、その送粉者を明らかにすることを主要な目的とし、調査をおこなった。京都市内に位置する上賀茂試験地及び、銀閣寺山国有林で154樹木個体を対象に、2015年3月16日から2015年4月16にかけて、日中及び夜間に訪花昆虫の調査(計3429分)を、2015年11月に果実率、果実あたりの種子数の調査をおこなった。訪花者は7目(ハエ目、ハチ目、甲虫目、チョウ目、カメムシ目、アミメカゲロウ目、クモ目)、215個体採集された。訪花頻度が高かった上位2種の訪花者はハエ目(66%)とハチ目(23%)で、全訪花の89%を占めていた。雌花で採集したハエ目とハチ目の体表を顕微鏡で観察したところ、両目ともヒサカキの花粉が付着していることが確認された。ハチ目については、気温が低い日時では、気温が高い日時に比べて訪花頻度が有意に低かった一方、ハエ目については、気温が低い日時であっても、気温が高い日時と比較して訪花頻度は低下しなかった。ハエ目の訪花頻度は、上賀茂試験地では、銀閣寺山国有林に比べて有意に高かったが、その他の昆虫に関しては、有意な差は見られなかった。結果率・果実あたりの種子数は、いずれについても上賀茂試験地(64.5% 14.1個/果実)で、銀閣寺山国有林(55.0% 11.1個/果実)より有意に高い値であった。これらのことから、気温が低い季節に開花するヒサカキの送粉には、ハエ目が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。


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