| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-017  (Poster presentation)

虫媒花における、花色と形態の相関進化ー送粉者相の異なる5地域間の比較ー

*角屋真澄(富山大学), 辻本翔平(富山大学), 久保田将裕(富山大学), 渡邉裕人(富山大学), 伏黒陽大(富山大学), 平岩将良(神戸大学), 丑丸敦史(神戸大学), 工藤岳(北海道大学), 石井博(富山大学)

 送粉動物の性質のうち、色覚は花色の進化と、外部形態は花形態の進化と密接に関わっていると言われる。しかし送粉動物の色覚と形態は独立な性質ではない。例えば送粉動物の中で、膜翅目の多くは優れた色覚を持ち、かつ比較的長い口吻を持つが、双翅目の多くは色覚に乏しく短い口吻しか持たない。従って花色と花形態も、相関しつつ進化してきたのではないだろうか。
 これまでにMenzel & Shmida (1993)とBinkenstein (2017)が、花色と花形態の間に、種間レベルのゆるい相関があることを報告している。しかし彼らの研究は送粉動物を観察していないため、花色と花形態の相関が、送粉動物の影響で生じたものだと結論づけることはできない。そこで本研究では、5つの植物群集(長野県菅平の半自然草原/富山県立山の高山帯/モンゴルの半乾燥草原/スウェーデン北極圏の亜高山-高山帯/ニュージーランド南島の高山帯)で花色と花形態を計測し、各植物種を訪れる送粉動物の観察を行った。
 その結果、送粉動物のほとんどが双翅目で占められていたニュージーランドを除くすべての地域で、花筒の長い花や左右相称の花ほど、膜翅目の色覚モデル(Bee color hexagon: Chittka 1992)におけるnon-greenish(概ね、人における青、紫、赤)となる傾向が見られた。花筒長と花色の相関は、双翅目の送粉者に短花筒でgreenish(白や黄)の花を好む傾向がある一方、膜翅目の送粉者に長花筒でnon-greenishの花を好む傾向があるために生じたものであると推察された。花の相称性と花色の相関も、少なくともその一部は、送粉動物との相互作用によって生じたものであると推察された。膜翅目と双翅目は世界の多くの地域で最も主要な送粉動物である。従って本研究の結果は、花色と花形態の相関進化が、汎世界的に起きている現象であることを示唆している。


日本生態学会