| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-022  (Poster presentation)

ヒメウラナミジャノメの訪花特性

*南木悠(総合研究大学院大学), 日下石碧(筑波大学), 寺井洋平(総合研究大学院大学), 丑丸敦史(神戸大学), 木下充代(総合研究大学院大学)

 訪花性昆虫が好んで訪れる花の種は、これまで社会性ハナバチ類を中心に明らかにされてきた。一方で、チョウ類は代表的な訪花性昆虫の一つであるが、個々の種が訪れる花についての知見は未だ断片的である。その理由は、特定の蜜場と巣を多くの個体が往復するハナバチに対して、チョウは自由に飛び回る個体の追跡が難しいことや訪花の手がかりになる花粉があまり体に付着しないからである。
 私は体に着いた少量の花粉から訪れた花の種を同定できれば、各種のチョウが野外で訪れる花とその特徴を解明できると考え、訪花観察や採集が容易なヒメウラナミジャノメを対象に花粉分析を試みた。まず、野外で採集したヒメウラナミジャノメをショ糖溶液で撹拌して花粉を集め、身体についた総花粉数の推定と花粉の形態による分類を行った。また、花粉から抽出したDNAをもとに、2領域(ITS1, trnL)の塩基配列を決定し、配列の相同性から花粉の分類群を同定した。以上の花粉分析の結果を野外での訪花(23日間:12時間/日)と比較した。
 体表についた花粉の分析から、ヒメウラナミジャノメがキク科の草本を中心に訪花しつつ、クリなど木本の花も訪れることが明らかになった。採集した19個体のうち17個体に花粉がついており、推定した総花粉数は1328 ± 374.0 個 /個体だった。観察した花粉形態は22種類あり、ここから10種3科の分類群を同定した。このうちキク亜科のヒメジョオンの花粉は最も多くの14個体に、次いでキク亜科のシャスタデージーとブナ科のクリの花粉はそれぞれ9個体に付いていた。また、花粉のDNA解析をした1個体から、シャスタデージーを含む2種4属の分類群を同定した。このうちシャスタデージー、ハルジオン、ブタナ、ムラサキツメクサ、ヒメジョオンへの訪花は、野外観察の結果と一致した。以上は本種の訪花特性だけでなく、花粉分析がチョウの訪問を直接観察するのが難しい花を同定するのに有効であることを示している。


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