| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-029  (Poster presentation)

環境DNA検出による両生類の分布推定と環境要因の分析

*三嶋達郎(岐阜大・応用生物), 大西健夫(岐阜大・応用生物), 岩澤淳(岐阜大・応用生物), 源利文(神戸大・発達)

世界には6,000種以上の両生類が生息するが,約1/3は絶滅危惧,1/4はデータ不足と評価されている.保全のために正確な生息情報の評価は不可欠であるが,生息地や産卵地の発見が困難な種も多い.近年,環境DNA分析手法の開発により,水中に存在する体組織や糞尿由来のDNA断片の検出・分析から当該水域に生息する生物種の推定が可能となりつつある.本手法は現地では採水のみのため,広範囲に生物種の分布推定が可能である.そこで本研究は,岐阜県下呂市の森林源流域を対象として両生類の環境DNAの多種同時検出,分布推定,分布に及ぼす環境要因の抽出を試みた.
第一に両生類の12s rRNA領域を対象にユニバーサルプライマーをデザインし,検出可能であることを確認した.次に流域24地点において,2017年5月,7月,9月,11月に採水および目視と捕獲による任意調査を実施した.試料に含まれる環境DNAの塩基配列をNGS(MiSeqシステム)により決定した後,低品質配列の除去や配列クラスタリングによるOTUピッキングを行い,ホスト生物種を同定した.さらに,採水地点の集水域の標高,勾配,方位,植生,樹冠疎密度,樹高を変数として,多重共線性を考慮してCCA解析を行い,支配的な環境要因を抽出した.
6科8属10種の両生類が検出され,概ね環境DNA検出地点数が任意調査で確認した地点数を上回った.また,検出率は有尾目で平均85%,無尾目で平均57%であったが,ヤマアカガエルとタゴガエルは任意調査で確認されたが環境DNAは検出されなかった.CCA解析の結果,ナガレヒキガエルとアズマヒキガエルが勾配に対してそれぞれ正負の相関を示し,繁殖域の違いが反映されていると推察された.また,ヒダサンショウウオとハコネサンショウウオが,広葉樹林率に対して,正負の相関を示した.対象地では冬季の水温と地温が広葉樹林と針葉樹林とで明瞭に異なることが示されており,温度要因による棲み分けの可能性が示唆された.


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