| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-058  (Poster presentation)

樹木の種多様性が細根の生産性を増加させるか ―スギ人工林の間伐強度試験14年目の結果から―

*根岸有紀, 松尾歩, 鈴木政紀, 清和研二(東北大学大学院)

【背景・目的】森林における樹木の種多様性と水質浄化機能との関連性は未解明である。地上部の種多様性が地下部で細根の生産量を増加させ、ひいては栄養塩の利用量を増やす可能性がある。だが根のサンプリングや樹種判別の方法論的な困難さから、森林では種多様性と地下部構造の関係は明らかでない。本研究は間伐強度を変え侵入した広葉樹の種数やサイズの異なるスギ人工林試験地において、次世代シーケンサーを用いて地下部の細根量や種数を解析した結果を報告する。
【方法】無間伐・弱度間伐・強度間伐を実施し間伐後14年が経過した34年生スギ人工林において、深さ50㎝の土壌コアを採取し、10㎝ごとに2㎜以下のすべての根を洗い出した。根は乾燥重量を測定し、またアンプリコン解析によって種同定を行い、層別の各種の現存量を推定した。地上部はスギと広葉樹の胸高直径と樹高を計測し、多様性の垂直構造を解析した。
【結果】弱度間伐では地上部の多様性は増加していたが、サイズは小さく、地下部ではシダ類や草本の根が見られた。一方、強度間伐では地上部の広葉樹のサイズが大きく、林冠レベルで多様性が増加しており、地下部でも各層で複数種の広葉樹の根が最も多くなった。
【考察】強度間伐では地上部の広葉樹の生育促進と種多様性の増加が同時に起こることで、地下部においても広葉樹の細根の生産量及び種数が増加したと考えられる。これには根の競争的排除やすみ分けなどによって、多種が相補的に単位空間あたりの根の量を高めて土壌中に根を充填させた可能性が考えられる。また草本類と比べた広葉樹細根の窒素吸収量の高さや、微生物の影響による植物の窒素吸収量の増加も相まって土壌中の無機態窒素を最大限に利用し尽くしていると考えられる。森林の水質浄化機能を向上させるためには、種多様性の回復に加えて林冠レベルでの混交林化が重要であるだろう。


日本生態学会