| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-118  (Poster presentation)

アカハライモリの産卵活動と卵径の季節変化

*中川知己, 草野保(首都大学東京)

アカハライモリ (Cynops pyrrhogaster) は本州以南に広く生息する日本固有種であり、実験動物として用いられるなど身近な種として親しまれてきた。しかし、野外における基礎的な生態については多くのことが分かっているわけではない。特に、産卵行動以外の産卵活動に関する情報は、1雌が1卵ずつ長期間に渡って産卵する習性により、野外における定量的な調査が困難なため極めて乏しい。そこで本研究では、本種の産卵活動を定量的に調査して基礎的な情報を得るために、2017年4月から7月まで、東京都八王子市南大沢のイモリ池 (直径約10 m、最大深度0.5 m) にて調査を行なった。岸辺の外周に沿って人工産卵床を10か所設置し、毎日産卵数のカウントを行なった。 また、新規に産卵された卵は一部を除き採集し、実体顕微鏡下で卵径の計測及び死亡卵のカウントを行なった。その結果、4月の上旬から7月の中旬までに総計5,339卵がカウントされた。産卵は途切れることなく毎日観察され、5月の下旬が産卵活動の最盛期であることが分かった。さらに、調査で採集した正常胚の卵の計測をおこなった結果、卵径は2.20 ± 0.10 mm (平均 ± SD, n = 2,775) だった。また、卵径と産卵のタイミングの関係を見ると、有意な負の相関が認められた。つまり産卵された卵のサイズが産卵期の前期から後期にかけて徐々に小さくなる季節変化が存在することが分かった。観察を行なった5,097卵のうち初期死亡卵は699卵で全体の初期卵死亡率は13.7%だったが、日別の初期卵死亡率は産卵期の前期と後期に高い傾向が見られた。その原因は不明だが、前期の低水温と後期の高水温など水温が重要ではないかと考えられた。以上のことから、野外において多くが不明であったアカハライモリの産卵活動について、人工産卵床を用いることにより基礎的な情報を定量的に得られることが分かった。今後、このような人工産卵床を用いた調査により個体群レベルでの産卵期の生態がより明らかになっていくことが期待される。


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