| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-124  (Poster presentation)

淡水生態系におけるセルカリア生産量の測定

*門脇喜彦, 浦部美佐子(滋賀県立大学)

寄生生物の生物量は食物網を考えるうえでほとんど考慮されてこなかったが,近年その重要性が認識され始めている。特に吸虫類の幼生であるセルカリアは高い生産量を示し,食物網において重要な位置にある可能性がある。そこで食物網に寄生生物を組み込む研究の一端として,第一中間宿主を介したセルカリアの生産量を測定し,淡水生態系食物網におけるセルカリアの重要性について考察した。
実験には吸虫Centrocestus spp.とその第一中間宿主であるカワニナ(Semisulcospira libertina)を用いた。吸虫に感染したカワニナ40個体と非感染個体40個体を5~7月に野外で飼育し,成長量を調べた。また感染個体8個体を用いて組織切片を作成し,カワニナの軟体部に占める寄生虫の割合を調べた。またセルカリアの生産量測定のためにセルカリア1個体の重量を測定し,同時に感染個体14個体を様々な温度条件で飼育して各温度条件におけるセルカリア遊出量を測定した。
野外実験の結果,軟体部乾重量は感染・非感染区ともに増加し,感染の有無による差はなかった。組織切片観察の結果,軟体部における寄生虫体の割合は平均5.1%であった。セルカリア1個体の乾重量は0.45㎍であった。カワニナ1個体におけるセルカリアの日遊出量は最大で27640個体に達し,遊出量と温度には正の相関がみられた。
以上の結果より,カワニナは最大で軟体部乾重量の8.7%に相当するセルカリアを1日で放出したことがわかった。また調査地で5~7月におけるカワニナの成長量とセルカリアの生産量はほぼ同じ値となった。調査地におけるセルカリア生産量の最大見積もりは水田における動物プランクトンの生産量に匹敵した。これらのことより,カワニナから多くの生物量がセルカリアとして環境中へ放出されており,寄生虫が食物網において重要な位置にあるという考えを支持する結果となった。


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