| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-157  (Poster presentation)

エゾシカ個体群における分集団構造の季節変化

*森本祥子(北海道大学環境科学院), 三澤桃(北海道大学環境科学院), 齊藤隆(北海道大学FSC)

マイクロサテライトDNA(msDNA)の解析により、北海道のエゾシカ個体群は、南北 2つの分集団から構成されていることが明らかになっている(Ou et al. 2014)。エゾシカには、夏の生息地と越冬地を毎年規則的に行き来する季節移動という生物学的な特徴が知られている。しかしながら、エゾシカの季節移動と分集団構造の関係はまだ調べられていない。そこで、本研究では、夏(7月1日 - 10月15日)と冬(1月1日 - 3月31日)における分集団構造を比較し、季節移動と分集団構造の関係を調べることを目的とした。2016-2017年に新たに全道(道南地域を除く)からサンプルを集め、先行研究のサンプルに追加した。夏サンプル(n = 311)と冬サンプル(n = 298)のmsDNA の8 遺伝子座の対立遺伝子頻度を用いて、GENELANDによって分集団構造を推定した。冬夏ともに南北 2つの分集団から成る分集団構造が推定された。また、冬における境界は夏における境界よりも南に位置していることが示された。これより、分集団構造は物理的な障壁によって形成されている、という仮説は棄却された。また、各分集団の遺伝的分化を調べるためにFST値を算出した。どちらの季節においても、北集団と南集団間のFST値は0と有意な差が見られ、南北の集団は遺伝的に分化していることが示された。また、冬の北集団と夏の北集団間のFST値は 0と有意な差が見られたものの、南集団間では差が見られなかった。これより、北集団は季節間で遺伝子組成が変化しており、南集団では変化していないことが示された。この季節間の遺伝子組成の変化はエゾシカの季節移動に伴うものであると考えられ、季節移動が分集団構造に影響を与えていることが示唆された。


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