| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-164  (Poster presentation)

発達したオス後脚は性的対立によって進化したのか:個体群入れ替え配偶実験による検証

*里見太輔, 高見泰興(神戸大・人間発達環境)

 雌雄の繁殖形質の急速な進化は,性的対立や他の性選択のモデルから予測される.そのような形質が性的対立によって進化した可能性を検証する方法として,個体群間の入れ替え配偶実験がある.性的対立によりオスの操作とメスの抵抗との間に拮抗的共進化が生じていれば,ある個体群のメスは自個体群のオスに抵抗できるよう適応しているが,出会ったことのない他個体群のオスにはうまく抵抗できないため,個体群内のペアよりも個体群間のペアの方が,メスはオスにより操作されやすいと予測される.
 フタイロカミキリモドキは,後脚に顕著な性的二型が見られ,オスは肥大した後脚で抵抗するメスを把握し交尾する.これは,雌雄の交尾頻度をめぐる性的対立により,オス後脚の肥大とメスの抵抗性の拮抗的共進化が生じた可能性を示唆する.これまで,オス後脚サイズには個体群間で変異があり,特に奄美大島個体群では発達の程度が低いことがわかっている.そこで本研究は,奄美大島個体群と,オス後脚が発達する沖縄本島個体群を用いた入れ替え配偶実験により,拮抗的共進化の検出を試みた.
 実験の結果,交尾率は沖縄オスと奄美メスの組み合わせの時にのみ高くなり,沖縄オスは奄美メスを操作できるが,奄美オスは沖縄メスを操作できないことが示された.これは沖縄メスがもがいてマウントを拒否する傾向がより強かったためだと考えられる.加えて,沖縄オスがマウント後に太い後脚を用いて強制的にメスと交尾するのに対し,後脚の細い奄美オスはメスが抵抗を緩めるのを待って交尾していたため,抵抗力の強い沖縄メスを操作できなかったと考えられる.これらの結果は,本種における発達したオス後脚とメスの交尾拒否は,拮抗的共進化によって進化し,奄美より沖縄個体群で共進化がよりエスカレートしていることを示唆する.また,オス後脚が細い奄美個体群では,オスの代替的な行動が進化している可能性も示唆された.


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