| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-219  (Poster presentation)

希少猛禽類イヌワシの絶滅リスク評価: 生息適地の推定と個体群の将来予測

*夏川遼生(横浜国立大学大学院), 前田琢(岩手県環保研センター), 松田裕之(横浜国立大学大学院)

 山岳地帯に局所的に生息する大型猛禽類のイヌワシは, 国内個体数が 約500 羽とされている絶滅危惧種で, 本種の保全には生息適地と絶滅確率の推定が不可欠である. 演者らは日本最大級のイヌワシ繁殖地である岩手県北上高地に生息する個体群を対象に, その推定を試みた.
 まず, 既存文献と現地調査から出生時の性比, 年齢別の死亡率, 繁殖成功率といった絶滅確率の推定に必要なパラメータを収集するとともに環境収容力を種分布モデル(SDM)により推定した. SDMでは調査地を1km(営巣), 10km(採食)の各スケールのセルに分割し,セル内のイヌワシの巣の有無と土地被覆, 地形の関係をゼロ過剰二項条件付自己回帰モデルを用いて定式化した. 本モデルを用いることで, 不完全な発見と空間自己相関に対処した. この結果, 営巣スケールでは平均標高約500mに近いほど, 傾斜45度以上の斜面面積率, 落葉広葉樹面積率, 最大標高と最小標高の差の値が高いほど在確率が高かった. 採食スケールでは, 傾斜30度以上の斜面面積率, 傾斜SDの値が高いほど, 人工地(農地と市街地)面積率と常緑広葉樹林面積率の値が低いほど在確率が高かった. 両スケールともに真陽性率と偽陽性率の差が最大となる値を在不在の閾値とし, 営巣スケールの在セルを内包する採食スケールの在セルの数を繁殖適地数とした. これを2倍し(1セルに雌雄繁殖個体各1羽を収容), 非繁殖個体数(繁殖個体数の25%)を加えた数を環境収容力とした結果, 145羽であった.
 上記のパラメータを使用した個体ベースの確率論的個体群動態モデルを構築し, 現在の個体数を80羽とした時の50年後のイヌワシの絶滅確率を予測した. この結果, 北上高地個体群の絶滅確率は31%と推定され, 極めて危機的状況にあることが示唆された. しかし, 本結果は個体の移出入がない閉鎖個体群を仮定しているため, 絶滅確率が過大推定されている. 今後は, 推定に必要なパラメータの蓄積に努め, モデルを更新していくことが必要である.


日本生態学会