| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-253  (Poster presentation)

島国のイヌワシ:有効集団サイズの変遷

*佐藤悠(京都大学 野生動物), Rob Ogden(Univ. of Edinburgh), 中嶋信美(国立環境研究所), 岸田拓士(京都大学 野生動物), 小松守(秋田市大森山動物園), 前田琢(岩手県環境保健研究セ), 井上-村山美穂(京都大学 野生動物, 国立環境研究所)

イヌワシ(Aquila chrysaetos)は北半球に6亜種が広く分布している猛禽類である。北米にはA. c. kanadensisが生息し、個体数は約32,000羽と推定されている。日本にはニホンイヌワシ(A. c. japonica)が生息し、約500羽と推定され、絶滅危惧IB類に分類されている。両イヌワシとも個体数の減少が指摘されている。適切な保全方法の検討には、将来の個体数の推定が不可欠であり、シミュレーションによる推定が多くの種で用いられてきた。しかし、イヌワシの場合、死亡率や繁殖年齢など未解明な点が多く、シミュレーションが難しい。そこで本研究では、イヌワシの全ゲノム情報にもとづき、pairwise sequential Markovian coalescent (PSMC)による解析を行って、数百万年から1万年前の過去の有効集団サイズを推定し、将来の個体数について考察する。
 北米のイヌワシの全ゲノムショットガンシークエンスデータを取得し、イヌワシのリファレンス配列にマッピング後、SNPsの情報を取得して、PSMCによる有効集団サイズの歴史的変遷の解析を行った。解析に必要となる1世代あたりの遺伝子突然変異率を9.9*10^-9、イヌワシの世代時間を飼育下のイヌワシの繁殖記録から25年とした。
 解析の結果、北米のイヌワシは100万年前をピークとして減少を続けていたことがわかった。10万年前の有効集団サイズは5,000羽程度であることが示されたが、現在の有効集団サイズが400羽程度と推定されているため、個体数の減少は継続していることが示唆された。将来も減少が継続すると考えられる。ニホンイヌワシでも同様の解析を行い、過去の有効集団サイズの推定、亜種間比較、将来の個体数の考察を行う。


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