| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-269  (Poster presentation)

イネ科植物がケイ酸吸収を通じて根圏の鉱物および土壌有機物に与える影響

*大沼俊貴(酪農学園大学), 小野拓哉(北海道大学大学院), 河上智也(北海道大学大学院), 小林高嶺(北海道大学大学院), 保原達(酪農学園大学), 春日純子(島根大学), 松本真悟(島根大学), 阿江教治(龍谷大学)

 植物が鉱物の風化に関与することが知られており、近年、イネ科植物が旺盛なケイ酸吸収を行うことで土壌中の鉱物を風化し活性Alを増加させるという報告がある。そしてイネ科植物のケイ酸吸収に伴い、活性Alが有機物と結合し複合体となることで、難分解性物質となって土壌中に有機物を蓄積させる可能性が考えられる。また、ケイ酸吸収に伴う鉱物風化により、土壌中の非晶質鉱物量に影響を及ぼす可能性がある。非晶質物鉱物は土壌中で有機物と結合しやすい性質が報告されており、非晶質鉱物量が増加した場合、有機物蓄積をさらに促進する可能性がある。そこで本研究では、イネのケイ酸吸収によって土壌中に有機物が蓄積するか否か、そして土壌中の非晶質鉱物量の変化を調べることを目的とした。その方法として、ケイ酸吸収を盛んに行うイネ(Oryza sativa)(品種: オオチカラ)の野生種栽培区(WT)と、その遺伝的変異種でケイ酸吸収能力が低いlsi1栽培区(lsi1)、そして対照区として無栽培区(Control)を設け、栽培跡地土壌を化学分析した。また、それぞれの区画について有機物源としてグルコースを添加した区(Glc+)と無添加区(Glc-)を設け、動態を比較した。
 結果として、Glc+で金属結合性の有機物がWTで多く見られ、有機物が蓄積した可能性が示唆された。また、土壌中の有機物結合性AlがWTで多く見られ、金属結合性有機物と正の相関があったことから、土壌中の有機物蓄積にAlが寄与していることが示唆された。一方でWTにおける有機物結合性Feの増加は確認できず、イネのケイ酸吸収による鉱物風化後のAlとFeで動態が異なる動態を示した。また、本土壌サンプル中の非晶質鉱物中のAlがGlc+で増加しており、土壌中の非晶質鉱物量が増加した可能性が示唆された。したがって、本研究からイネのケイ酸吸収によって有機物が蓄積することが示された。この現象は他のイネ科植物でも同様に起こりうるため、生態系や農地でも炭素蓄積が起こり、炭素動態が変化する可能性がある。


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