| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-047  (Poster presentation)

遊走細胞形成頻度から見た阿寒湖のマリモの繁殖生態―3タイプの生育形との関係性

*梅川健人(北海道大学環境科学院), 若菜勇(釧路市教委マリモ研), 大原雅(北海道大学環境科学院)

 北海道阿寒湖に生育する多年生緑藻の一種マリモ(Aegagropila linnaei)は、糸状体が集塊を形成する集合型、湖底に漂う浮遊型、岩石に固着する着生型という3つの異なる生育形を示す。酵素多型解析より、集合型と浮遊型の集団では遺伝的多様性が低く、着生型集団では遺伝的多様性が高いことが報告されている(Soejima et al., 2008)。本研究では、この遺伝的多様性の違いが繁殖様式と関連している可能性について検討すべく、湖内における各生育形の遊走細胞形成頻度と、遊走細胞を介した繁殖の頻度、さらに遊走細胞の形成能について調査を行った。5月から10月にかけて糸状体を採取し、顕微鏡下での観察によって遊走細胞形成頻度を調べた結果、8月中旬から9月上旬をピークとして着生型で遊走細胞が形成される傾向が見られた。また湖内における遊走細胞を介した繁殖の頻度を確かめるために、生育地の水中に約2週間、タイル板を設置して遊走細胞を付着させ、インキュベーター内で成長・発芽させる調査を行った。その結果、8月上旬から中旬、および8月中旬から9月上旬に着生型集団で設置したタイル板でのみ、付着した遊走細胞に由来するとみなされる糸状体を確認した。さらに遊走細胞形成に対する生育環境の影響を排除するために、各生育形の糸状体を同一の条件で培養したのちに形成頻度を調べたところ、着生型は高い遊走細胞形成頻度を示すのに対し、集合型や浮遊型では遊走細胞の形成がほとんど認められず、遊走細胞の形成能に違いがあることが明らかとなった。以上の結果から、遊走細胞の形成能が低下している集合型と浮遊型は、主に栄養繁殖を行っており、それが低い遺伝的多様性を示す理由であると考えられた。対照的に遊走細胞形成能を有する着生型は、湖内においても遊走細胞を介した繁殖を実際に行っており、これにより遺伝的多様性を創出しながら集団を維持していると考えられた。


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