| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-073 (Poster presentation)
一般に、植物と菌根菌は相利共生関係にあり、植物は菌根菌に有機炭素を供給し、菌根菌は植物に栄養塩や水を供給している。一方で、光合成能力を失い、炭素源を完全に菌根菌に依存する「完全菌従属栄養植物」も繰り返し進化してきた。また近年、外生菌根菌と共生するラン科やツツジ科イチヤクソウ連では、光合成能力を保持したまま、菌根菌からも炭素を得ている「部分的菌従属栄養植物」が多く報告されている。外生菌根菌の炭素安定同位体比(δ13C)はその宿主植物よりも大きくなることから、δ13Cが大きな緑色植物は、炭素源の一部を菌に依存していると判断できる。
しかし、大多数の草本種がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生しているにも関わらず、AM菌に依存する部分的菌従属栄養植物は未だ見つかっていない。これは、AM菌とその宿主植物ではδ13Cに顕著な差が見られないため、δ13CはAM菌と共生する草本種の炭素源を必ずしも反映しないことが一因である。しかし、森林生態系では、分解者による土壌呼吸の影響によってδ13CO2の垂直勾配が生じる。AM菌は、13Cの多いCO2を吸収する林冠木が主な炭素源であるため、独立栄養の草本種とδ13Cで識別できる可能性が高い。
本研究では、北海道帯広市内の夏緑樹林を対象とした安定同位体分析を行った。AM菌(胞子)のδ13Cは、菌根共生しない(すなわち独立栄養の)草本よりも有意に大きく、林冠木の葉および細根とは有意差が無かった。よって、δ13Cは草本種の炭素源を反映するマーカーとして有効だと考えられる。また、AM菌からの炭素供給が疑われる特殊な休眠様式を示すオオバナノエンレイソウの安定同位体比を測定したところ、δ13Cは独立栄養の草本とAM菌の中間的な値を示した。以上の結果から、オオバナノエンレイソウは炭素源の一部をAM菌に依存する部分的菌従属栄養植物であり、主に林冠木が同化した炭素を、AM菌を通じて間接的に受け取っている可能性が示唆された。