| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-086  (Poster presentation)

季節と成長に伴う樹皮形質の変化:冷温帯林と暖温帯林の比較

*松本洋平(東北大学生命科学), 饗庭正寛(東北大学生命科学), 黒川紘子(森林総研), 中静透(東北大学生命科学, 総合地球環境学研究所)

樹皮は樹木において多くの機能を持つ重要な組織である。樹皮形質は、樹種間で大きく異なり、生育環境や生活史戦略に応じた役割を果たしていることが報告されている。一部の樹皮形質では成長や季節に伴う変動が確認されており、利用可能な資源量や環境変化に応答して樹皮の機能を調節していると考えられている。しかし、樹皮に関する研究事例は少なく、特に湿潤環境の森林における機能やその変動は分かっていない。成長や季節に伴う変動を明らかにすることは、樹木の生活史戦略における樹皮の役割の解明や、樹皮形質の計測に際し考慮すべき条件の解明に必要となる。本研究では成長段階や季節による変動、および森林タイプによる樹皮形質の差異を明らかにした。
冷温帯林である北海道大学苫小牧研究林の落葉広葉樹25種と暖温帯林である北海道大学和歌山研究林の広葉樹9種(常緑種6種、落葉種3種)を対象とした。両サイトにおいて、夏(8-9月)と冬(1-2月)に、閉鎖林冠下の若木と樹冠に達している成木から、それぞれ3個体ずつ樹皮を採取した。物理的な形質として樹皮の厚さ、密度を測定した。化学的な形質として可溶糖分、デンプン、タンニン、フェノール、炭素、窒素の含量および含水率を分析した。一般化線形モデルにより、成長段階と季節、森林タイプ、およびその交互作用が各形質に与える影響を解析した。
多くの形質において森林タイプ間で有意な差異が見られた。暖温帯林の若木の外樹皮の相対的な厚さは冷温帯林よりも薄かったが、内樹皮の相対的な厚さには有意差が見られなかった。どちらの森林でも冬季にデンプンの可溶糖分への転換が見られたが、暖温帯林では、冬季にもデンプンが一部残存していた。このように森林タイプによって樹皮に対する投資や調節に違いがあると考えられる。発表では他の形質や成長段階も含めた詳細な解析を加えて考察する。


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