| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-104  (Poster presentation)

大津波によって形成された新規生息地におけるトゲウオの形態分化

*細木拓也(国立遺伝学研究所), 西田翔太郎(岐阜経済大学), 久米学(京都大学フィールド研), 森誠一(岐阜経済大学), 北野潤(国立遺伝学研究所)

生物の新規環境への進出と適応プロセスの解明は、生物多様性を理解する上で重要である。とりわけ津波などの大規模な撹乱は、環境を激変させる為に、適応過程を観測する上で有用な題材になりうる。そこで我々は、地震と津波によって形成された新規環境における、トゲウオ科魚類イトヨの採餌形態の多様性に注目した。

イトヨは、200万年以内に急速に適応放散を遂げた魚であり、進化生態学のモデル生物として位置付けられている。2011年の東日本大震災では、生息地の一つである岩手県大槌町が津波に見舞われ、湿地化した市街地に多数の新規生息地が形成された。

本研究では先ず、津波後の在来生息地と新規生息地の環境を比較した。その結果、塩分濃度や酸素濃度の点で、在来の生息地と異なる新規環境が形成されていることがわかった。次に、餌を漉し取る役割を担う器官である鰓耙に着目した。イトヨでは䚡耙が適応形質として報告されており、ベントス食性(淡水型)では少なく、プランクトン食性(海型)では多いとされている。2014年に22個体群で捕獲された合計395個体を対象に、鰓耙数を比較した結果、集団間で多様化している事がわかった。加えて、胃内におけるAcanthocephalus属の寄生率に生息地間の大きな違いがあった。現在、新規生息地に拡散したイトヨの遺伝解析及びベントスの群衆構造と胃内容物の解析を進めており、採餌形質多様化の適応的意義及び寄生虫感染率の集団間の違いを見出す要因を解明したいと考えている。


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