| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-114  (Poster presentation)

餌なしで変態するアカガエル属幼生における消化管の適応的表現型可塑性

*岸本渓(首都大学東京), 田村啓(北里大学), 林文男(首都大学東京)

 カエル類の幼生(オタマジャクシ)は一般に植物食であり、長い腸を持つ。一方、変態後の仔ガエルの腸の長さは、幼生より著しく短い。こうした腸の長さの違いは、変態期を境に食性が植物食から肉食に変化することに対する適応であると考えられる。しかし、変態後のカエルが肉食であるのに比べると、幼生の食性は多様である。雑食性を示す幼生では、植物質だけでも,動物質だけでも飼育可能である。また、動物食(卵食)に固定した幼生や、幼生が餌を食べずに変態してしまう種も知られている。
 本研究では、いずれもアカガエル属に含まれ、幼生が雑食性であるヤマアカガエル(Rana ornativentris)と餌を食べなくても変態期まで発育が可能なタゴガエル(R. tagoi)およびナガレタゴガエル(R. sakuraii)を材料として、幼生の食性の違いが彼らの腸の発生にどのような影響を及ぼすのか調べた。卵塊を2つのグループに分け、雑食性のヤマアカガエルの幼生では、ホウレンソウのみと乾燥イトミミズのみをそれぞれ与え、タゴガエルおよびナガレタゴガエルの幼生では、ホウレンソウのみと何も餌を与えないという条件下で飼育した。その結果、ヤマアカガエルの幼生では、肉食の場合、腸が短くなり、腸壁が厚肥するという表現型可塑性が生じ、さらに変態に伴う腸の再形成のためのアポトーシスが起こるタイミングが遅くなることが明らかとなった。また、タゴガエルとナガレタゴガエルの幼生の腸は、ヤマアカガエルの幼生の腸より著しく短く、アポトーシスが起こるタイミングは早くなっていた。餌を与えたタゴガエル、ナガレタゴガエルの幼生は、餌を与えなかった幼生に比べ、腸が長くなると傾向があった。以上より、肉食(卵黄による栄養も)の幼生の腸の発生と植物食の腸の発生に共通して起こる表現型可塑性は、摂食物の消化吸収と変態に伴う腸の再形成という点で適応的であると考えられた。


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