| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-144  (Poster presentation)

都市河川におけるサクラマスの遺伝構造:分断化、河道改修、放流による影響

*中村慎吾, 小泉逸郎(北海道大学環境科学院)

水産重要種であるサクラマスは高い母川回帰性を有し、河川の上流や支流で産卵を行うため小規模で遺伝的に固有な集団を形成する。大都市である札幌周辺ではこれまで人口増加に伴う水質の悪化(1960年代)や、人工河川(新川)の掘削(1887年通水)、稚魚の放流(主に1973年以降)などサクラマスの遺伝構造に影響を与えると考えられるイベントが複数発生している。自然集団が現存するかの確認も含め、今後の保全・管理を行うためには遺伝的特性を河川ごとに調べておく必要がある。今回、7つの河川(厚別川、精進川、真駒内川、中の沢川、小樽内川、琴似発寒川、星置川)においてサクラマス幼魚を採集し、11座のマイクロサテライトマーカーを用いて集団遺伝解析を行った。その結果、これまで放流の行われてこなかった中の沢川と星置川の集団で高い独立性が認められた。一方、放流が行われてきた河川の集団間では遺伝的に近いことが明らかとなった。以上のことから、札幌周辺のサクラマス集団は放流による遺伝構造への影響が大きいと考えられた。これまでは主に尻別川遡上系の魚が放流されてきているが、2015年以降は別水系由来の稚魚が放流されてきているため今後も遺伝構造は変化していく可能性がある。稚魚放流は高密度化により稚魚の成長を停滞させる、野生魚と交雑し適応度を低下させるなどの悪影響も懸念される。今後はなるべく放流に頼らず河川環境の改善により自然集団のサクラマスを増やしていくことが望ましい。


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