| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-157  (Poster presentation)

都市公園に生息するエゾリスの個体群構造:均一な大集団か、複数の孤立集団 か?

*渡辺充(北大・地球環境), 内田健太(北大・地球環境), 嶌本樹(帯広畜産大学), 柳川久(帯広畜産大学)

人為的な環境改変によりこれまで数多くの生物生息地が消失、もしくは孤立・分断化してきた。生息地の分断化によりパッチ間の移住の減少が引き起こされ、パッチ内の遺伝的多様性の低下や、局所集団間の分化が引き起こされる。これまで農地などの残存林において多くの研究が行われてきたが、最も改変が大きいと考えられる都市域での研究は意外にも少ない。
リス属は最も都市環境に順応している哺乳類のひとつである。本研究対象である北海道帯広市近郊のエゾリス(Sciurus vulgaris)も、多くの都市公園や郊外の分断林に局所的に分布している。各生息地パッチでは、多くの先行研究で示されているような遺伝的多様性の低下や近交弱勢を受けているのか(複数孤立個体群)、あるいは都市環境に適応して広く分散しながら大きなひとつの集団を形成しているのか(均一個体群)、集団遺伝学的な解析を用いて検討した。
1999年から2017年にかけて、生体捕獲とロードキル個体の回収により、合計48生息地パッチからエゾリス272個体のDNAサンプルを収集した。集団遺伝構造、および個体間の血縁度を核DNAマイクロサテライト11座より算出した。STRUCTURE解析を行った結果、2つの明瞭なクラスターが認められたが、地理的な分化は認められず2016年を境に時間的な分化が認められた。また、同一年度に4個体以上が捕獲された14のパッチ内で平均血縁度を調べたところ、全てのパッチで負の値を示した。以上の全ての結果は、パッチ内で近親交配が起こっておらず、エゾリスは遠くまで分散していることを示唆している。本調査地でも都市のエゾリスが大胆になっていることが明らかになっており、頻繁な移動分散が各パッチを結びつけて大きな個体群が形成されていると考えられる。また、2016年以降に遺伝的分化が見られた要因としては、再起率100年を超える超大型台風が襲来したことと関係があるかもしれない。


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