| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-182  (Poster presentation)

ニッポンバラタナゴの産卵生態解明に向けた映像データ収集・分析の試み

白井良成(NTT CS研), 水谷伸(NTT CS研), 岸野泰恵(NTT CS研), 須山敬之(NTT CS研), 松本雛子(近畿大学農学部), 松岡舞(近畿大学農学部), *北川忠生(近畿大学農学部), 納谷太(NTT CS研)

野生生物保護における生息域外保存は,野生の個体群の復元・増強に有効であるとともに,生物を身近において情報を得る絶好の研究機会となる.我々は絶滅危惧種の淡水魚であるニッポンバラタナゴの奈良個体群の保護の一環として,専用の素掘り池(縦2.5 m , 幅1.5m, 深さ0.5 m)を用いた半自然的な環境下での生息域外保存に取り組んでいる.本研究では,域外保存個体を対象として行動観察のための映像データと環境データを同時に収集するシステムの構築と,これらの比較によりニッポンバラタナゴの繁殖行動と環境条件の関係性の分析を試みた.2016年と2017年の繁殖期間中(4月〜10月),繁殖行動観察のため,動画カメラを水中に設置し,毎日午前4時から午後8時に,カメラの撮影範囲に設置した淡水産2枚貝に集まるタナゴの行動を撮影した.また,同時に環境測定のため,温度センサ,DOセンサを水中に,気温,照度センサを池横に設置し測定した.また,映像データから1時間ごとの繁殖・産卵行動回数を総計し,測定された照度,水温,DOと比較した.撮影条件の設定やセンサ類,通信システムの野外での運用にあたり,さまざまな課題が発生して断続的なデータとなったが,2017年には,一連の観測システムが安定的に運用出来るようになった.観察の結果,各期間の間だけでなく期間中の日ごとに繁殖行動の有無や生じる時間帯にばらつきが見られたが,繁殖期前期は夕方に,後期は朝方に集中する傾向が見られ,繁殖行動と照度や水温などとの関係性が示唆された.また,一連の繁殖行動が成立する産卵成功率は,繁殖盛期に上昇した.このように,新たな生態学的知見が得られる可能性が示された一方で,水中の映像データを用いて生態の分析を行うには,膨大な時間と労力を要することも明らかになった.本発表では,分析を加速するために開発した各種ツール群についても紹介し,ICT技術による生物研究支援のあり方について議論したい.


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