| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-191  (Poster presentation)

北海道におけるオウトウショウジョウバエの生活史と資源利用

*神田侑奈(北教大・札・生物), 並川寛司(北教大・札・生物), 渡部英昭(北大・総合博物館)

 オウトウショウジョウバエ Drosophila suzukii (以下,オウトウーと略す)は強固な導卵突起(ovipositor)を持ち,新鮮なサクランボやブルーベリーなどを食害する.本種の地理的分布はインド北部から東アジア・日本に至る日華区系であるが,近年,北米や欧州に侵入するなど世界的に分布を急激に拡大している.栽培果実の害虫として戦前からオウトウーの生態は研究されているが,そのほとんどが暖温帯域のものであり,分布の北限と考えられる北海道での研究は限られている.
 札幌で行った回収型トラップを用いての定期調査から,1)オウトウーは7月初旬に出現し,8月以降に個体群を増加させ,11月下旬まで採集される,2)その間,少なくとも3回世代を交代する,3)北海道では野外越冬が不可能である,ことなどが明らかとなった.
 飼育温度15℃と18℃で行った光周期反応の実験で,長日条件下(LL)と比較すると短日条件下(10L)では卵巣の発達速度は遅れるものの,未発達の状態を長く維持できなかった.また,短日飼育下の雌にも腹部に脂肪の大量蓄積は認められなかった.
 道央地域で5科9属11種の栽培植物および14科20属25種の野生植物の果実を採取し,オウトウーの食物資源を網羅的に調べた.このうち8種の栽培植物(サクランボ,ウメ,ナシ,ラズベリー,グズベリー,ブドウ,トマト,ブルーベリー)と8種の野生植物(ウラジロイチゴ,ハマナス,イチイ,ハスカップ,エゾニワトコ,ヤマグワ,コクワ,チョウセンゴミシ)の果実で繁殖が確かめられた.このうち,トマトは品種によって利用度の違いがあり,イエロートマトなどの果皮が薄く裂果しやすい品種は摂食・産卵し易く,一方“桃太郎”や“アイコ”などの果皮が固い品種は利用され難い.興味あることに,落下した果実類は多くの野生ショウジョウバエに食物資源または繁殖資源として利用されているが,樹生の果実類はどれもオウトウーがほぼ独占していた.


日本生態学会