| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-203  (Poster presentation)

東シナ海および日本海におけるウルメイワシの卵分布域の変化に対する表層水温の影響

*鈴木圭, 安田十也, 黒田啓行, 依田真里, 林晃, 向草世香, 髙橋素光(水研機構 西水研)

ウルメイワシEtrumeus teresは、16℃未満の低水温下で卵の発達が停止し、死亡することや生殖腺の発達時期や卵の出現時期に地域差(東シナ海:12-6月、日本海4-7月)があることが知られている。本研究では、本種は卵の発達に適した水温で産卵し、産卵場は水温依存的に時空間変化すると仮説をたて、以下の3点を検証した。1)水温が産卵に影響する。2)冬から夏にかけて水温が東シナ海から日本海の順に暖かくなるにつれて、産卵場も東シナ海から日本海に向けて移動する。3)温暖な年と冷涼な年で産卵場の位置が異なる。これらを検証するために、プランクトンネット鉛直びきによって本種の卵を、1997年から2013年にかけて、東シナ海および日本海における1318地点で25881回採集した。また、一般化加法混合モデルを用いて、卵の有無に対する水温の影響と水温と位置(テンソル積に変換した緯度経度)の交互作用の影響をみた。ただし、産卵親魚量や産卵期の影響を考慮するために、共変量として親魚量と日長の変化量をモデルに組み込んだ。卵の存在確率は表層水温の上昇に伴い17℃に達するまで増加した。確率は17℃以上では一定になったが、24℃以降で再び減少した。また、2月から6月にかけて、17℃以上の海域が九州西沖から日本海に広がるにつれて、本種の産卵場の位置も九州西沖から日本海へと徐々に移動していった。加えて、産卵場の位置や大きさは年によって変化し、温暖な年は冷涼な年に比べて産卵場がより北側に出現する傾向があった。つまり、本種は卵の発達に適した水温で安定的に産卵し、産卵場の空間分布は水温の季節・年変動に伴って経時的に変化する。産卵場の位置と大きさは、小型浮魚類の初期生残における生存戦略と密接に関連し、加入量に影響すると考えられる。個体群の半数近くを0歳魚が占めるウルメイワシでは、気候変動など水温の経時変化が、産卵場の分布域を変化させることで、個体群動態に間接的に影響するかもしれない。


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