| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-215  (Poster presentation)

真社会性アブラムシ、ササコナフキツノアブラムシにおける兵隊の前肢筋肉量の時間的、空間的変異

*Mitsuru HATTORI(長大・水環), Kota OGAWA(基生研・機能解析セ), Shuji SHIGENOBU(基生研・機能解析セ), Takao ITINO(信大・理)

半翅目昆虫のアブラムシの一部の種では社会性がみられ、アリやシロアリと同様に完全不妊の個体が出現する真社会性の種も知られている。真社会性アブラムシのササコナフキツノアブラムシCeratovacuna japonicaでは、不妊の防衛個体(兵隊)と繁殖個体へと成長する幼虫(非兵隊)が単為生殖によって産出される。発達した前脚とツノを持つ防衛個体は、捕食者の卵の破壊や捕食者に対する攻撃による捕食の遅延によって同じコロニー内の他個体の生存率を改善する。また、捕食リスクの低い春期に比べ、捕食リスクの増大する夏期に前脚長やツノ長といった武器サイズの大きな兵隊を産出することがわかっている。さらに、武器サイズの大きな兵隊は、武器サイズの小さな兵隊に比べより捕食を遅らせることができ、防衛能力が高いことが明らかになっている。この防衛能力の差は、兵隊の外部形態だけでなく、行動や内部形態(筋肉量など)に基づくと予測でき、兵隊の外部形態及び内部形態には少なくとも季節的な変異があると考えた。そこで、本研究は、まず長野県で採集されたササコナフツノアブラムシ兵隊における前肢腿節の内部形態を調べた。この結果、前肢腿節の内部構造は、強い力で関節を曲げるための構造をもっていることが明らかになった。次に、異なる季節(6月と8月)に採集されたササコナフキツノアブラムシ兵隊の前肢腿節における外部形態と内部形態を調べ、月間で比較した。また、長野県内の異なる個体群から6月に採集した兵隊についても同様に個体群間で比較を行った。これらの結果、前肢腿節長とその内部の筋肉量が相関し、6月の兵隊よりも8月の兵隊で発達していることが明らかになった。一方で、個体群間で兵隊の外部形態と内部の筋肉量は大きく異ならなかった。これらのことは、ササコナフキツノアブラムシが、兵隊の外部形態だけでなく内部形態を同時に発達させることで兵隊の防衛能力を向上させていることを示唆している。


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