| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-225  (Poster presentation)

マラウィ湖産ヒレ食シクリッドの捕食行動の左右性

*竹内勇一(富山大学), 畑啓生(愛媛大学), 丸山敦(龍谷大学), 山田拓人(富山大学), 西川巧馬(龍谷大学), Zatha Richard(University of Malawi), Rusuwa Bosco(University of Malawi), 小田洋一(名古屋大学)

アフリカの古代湖には、極めて多様な生態をもつシクリッド科魚類が進化してきた。シクリッドの食性は種ごとに厳密に分化しており、口部形態や摂食行動が特殊化しているものも多い。タンガニイカ湖の鱗食性シクリッドPerissodus microlepisは、下顎骨に際だった左右非対称性を持ち、個体ごとに襲撃方向が一方に決まっていることで、効率的に他の魚の鱗を剥ぎ取って摂食している。この口部形態の左右差は、多くの魚類で見られる現象であることが明らかになってきた。また、魚食魚やエビ食魚でも襲撃方向に偏りがあることが報告されており、逃げる相手から奪い取る捕食魚には明瞭な利きが現れる可能性がある。
 珍奇な捕食魚として、マラウィ湖には他の魚のヒレを噛みちぎって摂食するヒレ食性シクリッドGenyochromis mentoが生息している。ヒレ食魚の左右性を明らかにするため、G. mentoの下顎骨の左右差を計測し、捕食行動実験を行った。また、それらのデータをP. microlepisの左右性と比較することで、利きの共通性・多様性について考察した。左右の下顎骨の高さの違いを計測したところ、その頻度分布は左右対称の個体がほぼいない二山型を示し、個体群中に右利きと左利きがいることが分かった。その左右の高さの違いは平均3%で、P. microlepisの8%よりも有意に小さかった。次にG. mentoの捕食行動を水槽内で1時間観察した。ヒレ食行動については、ハイスピードビデオカメラで撮影し、詳細な運動を記載するとともに遊泳能力を定量化した。G.mentoは餌魚の尾ビレに頻繁に噛みついて摂食した。観察を行った半数以上の個体で襲撃方向に好みがあった(8/14個体)が、全個体両方向からの襲撃が見られた。また、この襲撃方向の偏りは開口方向と対応があった。鱗食のP. microlepisでは専ら餌魚の一方向から襲うことから、ヒレ食魚も形態・捕食行動に左右性をもつが、鱗食魚ほど顕著化していないと考えられる。


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