| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-226  (Poster presentation)

群れるバッタは脱皮時の共喰いをどう回避しているか?

*前野浩太郎(国際農研)

 群れる動物は、集団内の他個体が天敵の犠牲になることで個体ごとの被食リスクは低下するが、その一方で共喰いのリスクは高まる。とくに脱皮時の節足動物は、短期間ながらも逃避行動が制限されるため、共喰いされやすくなることが予想される。しかし、集団生活を営む節足動物がどうやって脱皮時の共喰いを避け、集団を維持しているのかは殆どわかっていない。
 この点を明らかにするために、集団生活をし、共喰いすることが知られているサバクトビバッタの幼虫の群れを対象に生息地のサハラ砂漠で調査した。バッタは脱皮直前になると外皮が柔らかくなり、摂食を止めて胃が空になる「ガットパージ」を示すため、これらの特徴を脱皮直前の指標に用い、脱皮前の行動の変化を観察した。食欲旺盛な個体は摂食と休息を繰り返しながら群れで移動を続けたが、一部の個体は脱皮直前になると移動を止め、植物上に留まり、群れからとり残された。脱皮前後は摂食を止めることから共喰いの恐れのない個体同士の集団が局所的に形成され、その後脱皮が同調して起こった。
 次に、他個体が満腹のときに脱皮すれば共喰いは起こりにくいと予測し、脱皮と摂食の一日の内のリズムを調査した。その結果、最も空腹レベルが高い朝方には脱皮せず、殆どの個体が摂食済みの昼前から脱皮が起こることがわかった。バッタの空腹レベルを操作し、共喰いの発生率を調べたところ、空腹の個体では高く、満腹の個体では低かった。悪天候により、群れの移動が起こらない場合もあるため、この内因的な脱皮・摂食リズムも脱皮時の共喰いのリスクを下げるのに機能していると考えられた。以上より、サバクトビバッタは脱皮する場所とタイミングを調整することで、共喰いのリスクを回避していることが示された。本研究は、集団生活が被るリスクを構成員が行動的・生理的に軽減することによって集団が維持されていることを示唆したものである。


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