| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-297  (Poster presentation)

安定同位体比を用いた米魚同時栽培水田の物質フロー解析

*小関右介(大妻女子大学), 松崎慎一郎(国立環境研究所)

近年、各地の水田で、化学肥料や農薬などによる環境負荷を低減し、生物や自然がもつ力を最大限に利用する持続可能な農業システム(環境保全型農法)の開発・普及が進められているが、そうした農業システムを確立するうえで、化学肥料や農薬が普及する以前に行われていた伝統農法から学ぶところは大きいと考えられる。水田で稲とともに魚を育てる「稲田養魚(とうでんようぎょ)」は、農薬の普及や圃場整備等にともない衰退した伝統農法であるが、かつてその高い生産性は米魚両全(こめうおりょうぜん)とも評された。この高い生産性のメカニズムは、一つには、魚の排泄物(フン)が肥料になる「施肥効果」であることが経験的に語られてきたが、この仮説は科学的に検証されていない。

そこで筆者らは、長野県佐久市の水田において、稲田養魚における施肥効果とその量的評価を目的とした炭素・窒素安定同位体比分析を行った。養魚水田3面について、5月から8月にかけて、水田土壌、魚(フナ)のフンおよび給餌飼料を採集し、測定したδ13C値およびδ15N値に基づく同位体混合モデル解析を行った結果、水田土壌に対するフナのフンの寄与率は10〜40%と推定されたことから、施肥効果の存在が確かめられた。一方で、給餌飼料もフンと同等かそれ以上に水田土壌に寄与していることが示された。これらの結果は稲田養魚の環境保全効果と環境負荷について重要な示唆を与えるものである。


日本生態学会