| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-305  (Poster presentation)

樹木器官間のリン分配が熱帯降雨林バイオマス中のリン滞留時間に与える影響

*辻井悠希(京都大・農), 相場慎一郎(鹿児島大・理工), 北山兼弘(京都大・農)

リンは植物の必須元素だが、風化の進んだ熱帯土壌では植物の利用可能なリンが欠乏している。こうした低リン土壌上の樹木は、落葉前のリン再吸収など、樹体内からのリン損失を抑制する仕組みを持つので、樹体内でのリン滞留時間が長いと考えられている。しかし、リン滞留時間を実際に推定した研究はなく、リン滞留時間と土壌リン可給性の関係はよく分かっていない。そこで、本研究では、樹木地上部バイオマス中(葉と幹)のリン現存量とリターを通したリン損失速度から、樹木地上部バイオマス中のリン滞留時間を林分レベルで定量的に推定した。この推定を、ボルネオ島キナバル山の土壌リン濃度の異なる8つの熱帯降雨林で行い、リン滞留時間と土壌リン濃度の関係を解析した。樹木地上部バイオマス中のリン滞留時間(3.0–10.1年)は、地上部バイオマスの回転速度(16.9–39.5年)の約5分の1と短かった。これには、樹木器官間(葉と幹)の資源分配における、リンとバイオマスの違いが関係していた。すなわち、葉のリン濃度は幹のリン濃度より高いため、葉へのリン分配比(葉バイオマス中のリン現存量/地上部バイオマス中のリン現存量)は葉へのバイオマス分配比(葉バイオマス/地上部バイオマス)より大きかった。葉は回転速度が速いので、葉へのリン分配比の増加は、リン滞留時間を減少させると考えられた。さらに興味深いことに、予測に反して、土壌リン濃度とリン滞留時間の間には有意な相関が見られなかった。これは、土壌リン可給性の低下に伴い、落葉前のリン再吸収効率が上昇した一方で、葉へのリン分配比が増加したためであった。これらの結果から、樹木のリン保持戦略だけでなく、樹木器官間のリン分配が樹体内のリン滞留時間に影響することが示唆された。


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