| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-033  (Poster presentation)

開花期が異なる土壌エコタイプ間での遺伝子流動:キク科2属での検証

*阪口翔太(京都大学・人環), 堀江健二(北邦野草園), 石川直子(東京大学・総合文化), 永野惇(龍谷大学・農), 八杉公基(基礎生物学研究所), 工藤洋(京都大学・生態研), 成田あゆ(北海道立総合研), 井鷺裕司(京都大学・農), 伊藤元己(東京大学・総合文化)

 特殊土壌が形成される蛇紋岩地帯には固有植物が多くみられ,種分化が起こりやすい条件を備えていると考えられる.近縁な生態型を利用した相互移植研究からは,一般土壌型と蛇紋岩型の間に分断化選択によって生殖隔離が成立し,種分化が起こる可能性が提示されてきた.一方,蛇紋岩植物の中には早期開花性を獲得した種が多数存在しており,交配前隔離が種分化において重要な役割を果たしたことも考えられる.本研究ではこうした隔離要因について,ほぼ同所的に異なる生態型が維持されているキク科2属(アキノキリンソウ属とコウゾリナ属)を対象に,生態学的手法と集団遺伝学的手法を組み合わせて検証を行った.
 アキノキリンソウ属での相互移植実験の結果,成長量・生存率・頭花生産量において局所適応が検出された(生殖隔離の程度:RI=0.52-0.55; RI=0.21-0.68; RI=0.80).開花期は2属ともに蛇紋岩型で早く,開花のピークは生態型間でそれぞれ2か月程度ずれていることが分かった.そのため,交配前隔離の程度はアキノキリンソウ属ではRI=0.36-0.98(集団A)/RI=0.99-1.00(集団B),コウゾリナ属ではRI=1.00と,非常に高い値が推定された.次いで,生態型ペアが集団分化した後に遺伝子流動が存在したかどうかを検定したところ,2属ともに遺伝子流動の有意な効果が検出された.以上から,分断化選択と強い交配前隔離によって土壌生態型が維持されているものの,開花期のずれが完全ではないために生態型の間で遺伝子流動が起きた可能性が示された.このことは,特殊土壌地帯において生態的種分化が完了するかどうかは,安定した交配前隔離の発達や異所的なステージに依存することを示唆している.


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