| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-041  (Poster presentation)

第三紀遺存種カツラにおける隠岐集団の遺伝的な位置づけ

*須貝杏子(島根大・生物資源)

隠岐諸島は、日本列島の島根半島から約50 km北方に位置している。第四紀以前の大規模な火山活動によって、隠岐諸島の原型となる島々が形成された。しかし、約2万年前の最終氷期には現在よりも110 mほど海水面が低下しており、隠岐諸島は島根半島と接続し、日本列島と陸続きになっていた。その後、氷期が終わり、温暖化による海水面の上昇に伴って島根半島から切り離され、約1万年前には再び現在のような島嶼環境になった。気候変動は生物の分布に大きな影響を与えており、氷期に分布域を縮小させた温帯林構成種では、当時は半島だった隠岐諸島がレフュジアの1つになっていたことが複数の手法(花粉分析・遺伝解析・生態ニッチモデリング)により明らかにされている。このように日本列島と接続した「半島の時代」と再び切り離された「島嶼の時代」を経た隠岐諸島は、日本列島の森林のなりたちを知る上で重要な位置を占めていると考えられる。
そこで本研究では、日本列島の森林の成立・維持の過程において隠岐諸島が果たしてきた役割を明らかにすることを目的として、カツラCercidiphyllum japonicumを用いて分子系統地理学的な調査を行った。カツラは渓畔林に代表的な樹種であり、隠岐諸島では島後を中心に生育している。島後でカツラの集団サンプリングを行い、核マイクロサテライトマーカーと葉緑体シークエンスを用いて遺伝的多様性と遺伝構造を調べた。その結果、隠岐諸島の集団は日本の他地域と同程度の遺伝的多様性を有し、葉緑体シークエンスに変異はみられなかった。今回の調査では、遺伝的多様性が高いなど隠岐諸島が氷期にレフュジアとなっていた痕跡は、カツラにおいて認められなかった。隠岐諸島がレフュジアとなっていた遺伝的な根拠を示すためには、別の温帯林構成種においても解析を行うことが今後の課題である。


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