| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-062  (Poster presentation)

120年ぶりに開花したスズタケ種子の形態的・生理的特性

*木村(加藤)恵(森林総研・林育セ), 川村遼馬(日大・文理), 井上みずき(日大・文理), 齋藤智之(森林総研・東北)

タケ・ササ類の多くは、長期間に渡る栄養成長を経て一斉開花することによって種子を生産することが知られている。種子が大量に生産される一斉開花は稀な現象であるため、ササ・タケ類の種子の生理特性・発芽特性に関する知見はいまだ限られている。スズタケ(Sasamorpha borealis)は北海道から九州、朝鮮半島に広く分布するササ類の1種であり、冷温帯から暖温帯の林床を優占する主要な植物種のひとつである。2016~2017年にかけて長野県、岐阜県の南部と愛知県を中心に大規模な一斉開花が観察された。古文書などの文献情報からおよそ120年ぶりの大開花であると考えられる。本研究ではこの一斉開花で得られた5系統のスズタケ種子の特性を調べ、インキュベーターを用いた室内実験により発芽条件について検討した。スズタケの種子の長径は平均6.3mm、短径は平均2.9mmと過去の報告と同等の値を示し、籾を含めた種子の乾燥重量は平均29.1mg/粒であった。種子の乾燥耐性の指標となるSeed coat ratio(SCR、種子の乾燥重量に対する種皮および果皮の重量の割合)は平均0.232であり、スズタケは乾燥耐性を有するオーソドックス種子であると考えられた。乾燥処理を行った種子をテトラゾリウム溶液で染色し生存を確認したところ、含水率が6%前後まで低下しても生存することが明らかとなった。乾燥した種子は-20℃で凍結保存しても生存率は低下しなかった。発芽処理として、低温湿層処理(4℃1ヶ月)、高温処理(50℃5日間)、ジベレリン処理などを施し3週間育成したが、いずれの処理でも発芽はみられなかった。テトラゾリウム染色では生存が確認されたことから、深い休眠状態にあると考えられた。オクヤマザサなどでは低温処理を複数回行うことで休眠打破されると報告されており、スズタケでも同様の処理が有効かもしれない。


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