| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-083  (Poster presentation)

スギの葉の浸透圧とその変化

*齋藤隆実(森林総研), 飛田博順(森林総研), 矢崎健一(森林総研), 小笠真由美(森林総研), 奥田史郎(森林総研関西), 山下直子(森林総研関西), 宇都木玄(森林総研)

樹木の個体レベルでの環境応答を知るために、苗木の生育環境を操作してその応答を観察することが有効である。実際の樹木の生育状況を考えると、窒素と水分のような複合的な環境要因の変化に対する応答について調べることが大切だが、これまで実験材料となる多数の苗木を均質な処理条件下で育成することは難しかった。近年、多数の栽培容器を連結した多孔容器(コンテナ)が森林科学分野で広く利用されるようになり、苗木を実験条件下で効率的よく育成することが可能になってきた。
過去の研究で、樹木の葉の水分生理学的な応答については、灌水を調整した処理への応答は多く調べられているが、施肥を調整した処理への応答を調べた例は少ない。とりわけ、葉の乾燥耐性に大きく影響する葉肉細胞の浸透圧の理解を深めるために、窒素と水分条件の変化に対する応答を比較することが効果的である。そこで、本研究では葉の搾汁液の浸透圧について、施肥と灌水を調整する処理への応答とその後の植栽による処理の解放への応答とを明らかにすることを目的とした。
材料にはコンテナ(300ccスリット)で育成したスギの一年生苗を用いた。まず、育苗施設で2016年春から夏にかけて苗木を育成した。次に、2016年9月下旬から苗木を多・少量施肥および、高・低頻度灌水の4処理区に分けて育成した。さらに、2017年4月下旬に茨城県つくば市の実験圃場に植栽し、野外の同一の養分・水分条件下で育成した。5月、6月、7月、9月に葉の水分生理特性を測定した。葉の水分生理特性として、P-V曲線、葉肉細胞の搾汁液の浸透圧、夜明け前の水ポテンシャルを測定した。その結果、葉の浸透圧は高・低灌水間で違いはなかったが、多施肥の葉は少施肥の葉より浸透圧が低かった。この違いは植栽から3ヶ月目には消失した。発表では葉肉細胞の浸透圧の測定方法についても議論を深める予定である。


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