| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-092  (Poster presentation)

陰葉では何故クロロフィルbの割合が増えるのか?

*久米篤(九州大学), 秋津朋子(筑波大学), 奈佐原顕郎(筑波大学)

クロロフィル(Chl)は光量子を吸収して電子を放出するための重要な色素分子で、陸上植物はChl aとbのみを利用している。Chl aはグルタミン酸から約20ステップの反応によって合成され、その一部は酵素(CAO)によってChl bに変換され、集光性Chl a/bタンパク複合体(LHC)を形成する。光吸収のほとんどはLHCによって行われ、Chl b はLHCにしか含まれていないため、Chl aとChl bの割合(a/b比)の調節は、光合成の光吸収効率(光化学系のアンテナサイズ)を決める重要な要素である。a/b比は3程度の値を示すが、直達日射があたりにくい環境で展開するいわゆる陰葉ではChl bの割合が増えてその値が減少する。Chl aとbの吸収スペクトルのピーク波長は20nm程度異なっているが、その影響を野外環境における実際の日射スペクトルとの関係から検討し、光合成に利用できる様々な光吸収色素がある中で、何故、Chl bがLHCに利用されるのかについて検討した。日射の直達放射と散乱放射ではスペクトル分布が大きく異なっており、日中の直達放射では約680nm、散乱放射では約470nmでそれぞれ光量子束密度の最大値を示す。有機溶媒中のChl bの短波長側の吸収ピーク(ソーレ帯)波長は約450nmに位置しており、これはChlの中でもっとも長波長側にある。そのため、他のChlと比較して、散乱日射成分を吸収するのに適していた。一方、長波長側のピーク(Q帯)波長は約640nmと短く、吸光係数も小さいため、日射の最大光量子束密度の波長域(680nm)における吸収には適していない。これは、Chl aのQ帯波長がChlの中でもっとも長波長側にあり、吸光係数も大きい事とは対照的である。Chl aとChl b から構成されるLHC ではChl aよりも大幅に光吸収効率が高まっていた。Chl bはChl aに対して相補的に働くことで、特に散乱放射に対する光吸収効率を高め、直達放射があたらない環境に適した吸光特性をもたらしていると考えられた。


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