| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-093  (Poster presentation)

貧栄養な環境の大木は、どのようにして高い樹高を維持しているのか?―熱帯泥炭湿地林の場合―

*門田有佳子(京都大学), 清野嘉之(森林総合研究所), Auldry Chaddy(熱帯泥炭研究所), Christopher Damian(熱帯泥炭研究所), Lulie Melling(熱帯泥炭研究所)

樹木のように地上部が大きく寿命の長い植物にとって、太く堅い幹は重要だ。高い材密度は、幹に強度を与え腐朽の進行を遅らせるが、建設コストが高い。しかしShorea albidaが優占する熱帯泥炭湿地林は、貧栄養な泥炭が堆積する湿地に大木が成立している。貧栄養な湿地で、どのようにして大木が成長し直立を維持しているのか?この疑問に対して、形態的、構造的な視点から考察を試みた。熱帯泥炭湿地林では、泥炭の分解の程度によって異なる森林タイプが成立する。養分がやや多い立地の森林タイプ(Type2)では、S.albidaは幹に樹洞を伴って大木まで成長する。一方で貧栄養な立地の森林タイプ(Type3)では幹全体が脆心材で、最終的な個体サイズも中程度までしか成長しない。本研究では、サラワク州のマルダム国立公園内の熱帯泥炭湿地林で、Type2とType3に成立するS.albidaを対象に、幹直径と樹洞直径、材密度と樹高を測定した。樹洞の無いほぼ同程度の胸高直径の個体を比較したところ、Type3は脆心材であったのに対してType2は幹の中央部のみ脆心材で、外縁部は硬材だった。Type2に成立する樹洞のある大木の幹は太く材密度も高いが、樹洞が大きいために幹の厚さが薄かった。両タイプとも幹折れが多かったが、側枝の再成長によって樹高を回復していた。これらのことからS.albidaは、利用可能な養分によって異なる成長戦略を取っていると考えられた。養分がやや多い立地では、樹洞を伴いつつも幹の堅さと太さを優先する。貧栄養な立地では、低コストの材で幹を太くすることを優先する。両戦略とも、それぞれ幹の厚みと幹の堅さを犠牲にするため幹折れが発生するが、再成長へ資源を投資することによって高い樹高を維持している。


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