| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-127  (Poster presentation)

比良山系スギヤ池堆積物の花粉分析・大型遺体分析に基づく最終氷期最盛期以降の植生変遷

*高原光(京都府立大学), 柴崎大樹(京都府立大学), 佐々木尚子(京都府立大学), 林竜馬(滋賀県立琵琶湖博物館), 山川千代美(滋賀県立琵琶湖博物館)

琵琶湖西方に位置し,南北に連なる比良山系の上部には小規模な湿地が連なって分布している。これらの一つであるスギヤ池(標高960m)は白滝山から南へ続くやや平坦な鞍部に形成された湿地(約15m×35m)である。湿地内にはスギの高木が生育し,周辺斜面はクリ,ミズナラなどが優占する落葉広葉樹の二次林である。このスギヤ池中央部で7.3mの堆積物を採取した。堆積物の深度4.45mでは姶良Tn(30000 cal yr BP),4.27mでは大山笹ヶ平,3.30mでは鬼界−アカホヤ(7200 cal yr BP)の各火山灰層(年代はSmith et al. (2013)による)が認められた。これらの火山灰層の年代および7層準におけるAMS放射性炭素年代,花粉分析,微粒炭分析,大型遺体分析の結果,以下の植生変遷が明らかになった。30000年前以降の最終氷期最盛期(LGM)の層準では,モミ属,ツガ属,トウヒ属,マツ属単維管束亜属(五葉タイプ)のマツ科針葉樹とカバノキ属花粉が優勢で,さらに,トウヒ (Picea jezoensis) の針葉が多数認められた。これらの結果は,LGMにはトウヒを含むマツ科針葉樹が優占し,カバノキ属を伴う亜寒帯性常緑針葉樹林であったことを示している。晩氷期には,マツ科針葉樹が衰退し,ブナ,コナラ亜属,ニレ属/ケヤキ属などの落葉広葉樹花粉が増加し,落葉広葉樹が優勢となった。この初期には微粒炭が多く認められ,火事の多発を示している。ブナなどの落葉広葉樹の優勢な森林は現在まで継続しているが,約3500年前以降に微粒炭が再び増加し,その後,カバノキ属花粉の出現率が高くなり,火事による撹乱が継続していたと考えられる。また,スギは低率ながら落葉広葉樹林に伴っていたが,約3500年前以降,増加傾向を示した。


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