| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-214  (Poster presentation)

耕作放棄の一次元進行モデル - 異なる利害を持つ農家間で協力は達成できるか?

*大槻久(総合研究大学院大学), Thomas Reeves(総合研究大学院大学), 福井眞(早稲田大学)

協力の達成は社会科学のみならず保全生態学においても重要な課題である。従来の理論研究の多くは、同等の能力と利害を持つ複数の意思決定主体が集まった時にどのように協力が達成されるか、という点に主眼を置いていた。しかし協力が必要とされる実際の場面においては、しばしばこれら意思決定主体は異なる利害を持っている。例えば地球規模の大気汚染・海洋汚染問題においては大国の影響力が小国のそれに比べて圧倒的に大きい。森林保全の場面では、地域住民、開発業者、行政はそれぞれ異なる価値を最大化しようとする。このような異質性(heterogeneity)は協力にどのような影響を与えるのだろうか?
 この大きな問いの解明に向けた一歩として、農家の耕作放棄の連鎖モデルを議論する。耕作放棄地は病害虫の源となっているとし、各農家の持つ農地の放棄地からの距離は異なるとする。農家は共同体に資金を出し合い共同で病害虫の防除努力を行う。勿論放棄地に近い農地のほうが、病害虫が伝播する確率は高い。
 このような状況を、原点に耕作放棄地が、そして正方向の一次元格子点に各農家の農地が存在する空間構造モデルで表現し、各農家が共同体に支出する額の均衡値をゲーム理論を用いて求めた。農家1は直接放棄地に面しており最高のリスクを抱えている。農家2のリスクはそれよりも低いが、農家1が耕作放棄をすると、次に自らの農地が直接放棄地に面してしまうという意味で高いリスクを抱えている。
 解析の結果、(1)共同体に対する全農家の支出額の和は、空間構造がない場合に比べて減少しないこと。つまり総協力量は農家間の異質性から負の影響を受けないこと、(2)農家1の支出額が飛び抜けて高くなること。すなわち達成される協力は少数の農家に依存した不安定なものであり、景気変動や環境変動に対して頑健でないこと、(3)農家の総数が多くなると逆に総協力量が減少する逆説的現象が起こり得ること、の三点を見出した。


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