| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-269  (Poster presentation)

ツマアカスズメバチに対するベイトトラップの捕獲効率の評価

*岸茂樹, 池上真木彦, 五箇公一(国立環境研)

ベイトトラップを用いて野外の昆虫の密度や分布を正確に推定するためには、対象とする昆虫のトラップ周辺の密度とトラップに誘引・捕獲される個体数の間に高い正の相関が必要である。この相関は単独性の農業害虫等では比較的詳細に研究されているが、多数のワーカーを持ち、巣を中心に比較的広い範囲で採餌行動を取る社会性昆虫を対象に詳しく調べた研究は少ない。我々は対馬に侵入したツマアカスズメバチを対象に、この正の相関性を検証した。2015年に対馬で発見された巣の位置情報と、同時期に対馬全域に設置されたベイトトラップに捕獲された個体数のデータを用いた。トラップを中心とした円の半径をさまざまに変化させ、円内にみられた巣の数とトラップに捕獲された個体数の相関を調べた。その結果、相関係数は総じて小さかったが、円の半径が500mと2300mの時に相関係数のピークがみられた。500mのピークはトラップの誘引距離と考えられ、これがツマアカスズメバチの通常の採餌距離と解釈できた。一方、2300mのピークは地理的な巣の密度の変化をとらえたものと考えられた。さらに巣を駆除した直後の近隣のトラップに捕獲された個体数をその前月の結果と比較したところ、捕獲個体数の減少は認められなかった。従ってベイトトラップに捕獲されるツマアカスズメバチの個体数は周辺の巣の密度をあまり反映しないので、ベイトトラップによる防除効果はあまり大きくなく、また空間分布の推定にはより効果的な手法を検討する必要があると考えられる。


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