| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-31  (Poster presentation)

環境DNAを用いた長良川・揖斐川の魚類の分布解析

*土田康太, 常川光樹, 廣瀬雅惠, 坂井雄祐, 日下部綾音, 都竹優花(岐阜県立岐阜高等学校)

 岐阜県を流れる長良川と揖斐川に生息する両側回遊性のアユ,小卵型カジカ,降下回遊性のアユカケは,河川と海を往来する特殊な生活史を持つ。しかし,大河川の激流中に生息するため,その生態調査には多大な時間と労力を要する。近年,迅速かつ効率的な生物調査技術として,水中や土壌に存在する生物のDNA断片を分析する環境DNA技術が注目されている。そこで,この環境DNAを用いて河川回遊魚の生活史や資源量を把握することを目指した。2017年7月から約1ヶ月ごとに長良川9地点(河口から110㎞まで)と揖斐川6地点(河口から85㎞まで),合流点(河口)1地点で水1Lを採取し,ろ過,DNA抽出を行った。7,9,10,11月のサンプルについて,アユ環境DNAの定量解析を行った。カジカ属の小卵型カジカ,大卵型カジカのmtDNA cyt b領域,同属のアユカケのmtDNA cyt b領域と12s rRNA領域についてプライマーを作成し,DNA増幅の確認を行った。アユの定量解析の結果,7月に上流から中流まで広域でDNAが検出された。9月に中流域でDNA量が著しく上昇した。10,11月に上流域でDNA量が減少し,下流域,河口でDNAが検出された。これらの結果はアユの生活史において,成魚が6~8月に上流域,中流域で生活し,9月に産卵に向け中流域下部の産卵場に集まり,孵化した稚魚が10,11月に海へ下るという行動から予測される環境DNAの増幅パターンと一致した。さらに,長良川,揖斐川は他の河川の研究と比較して,アユの環境DNA量が非常に多いことが分かった。この結果は,2河川のアユの資源量が多いことを反映していると考えられる。カジカ属プライマーの増幅確認の結果,アユカケのDNA増幅は確認できず,小卵型カジカ,大卵型カジカのDNA増幅を確認した。今後も採水を継続し,環境DNAを用いてアユの一年を通した生活史を探りたい。そして,カジカ属における環境DNAの調査手法を開発し,アユと同様に,産卵へ向けた移動や遡上の状況を探りたい。


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